という程の事もありませんでしたが…」
徳子と伊達が口論をしたとは初耳だ。検事は周囲の状勢から何か推察してカマをかけているのかしら。カマとすればこれは成功だつた。
伊達正男は明らかに狼狽した。
「しかし、今ほかの方にきくと何か口論があつたようだが」
「口論て、大したことはないのです。ただ叔母さんがしきりに私にせまるものですから」
「どういうことを?」
「さだ子さんとの結婚についてです。叔母さんに云われてはじめて知つた位なんですが、何でも叔父さんは今度僕がさだ子さんと一緒になると、このうちの財産の約三分の一をさだ子さんと僕にくれることにきめているのだそうです。叔母にすれば、それが甚だけしからん、という事になるのです」
「何が」
「つまりその額がでしよう、まだたくさん子供があるのにさだ子だけに三分の一を分けるというのは不当に多すぎると云われるのです」
「それで君はなんと答えた」
「無論僕は財産なんか、目的ではない。たださだ子さんと結婚するのが目的なんだから財産なんか一文だつていらない、と云つたのです。又実際そう思つていますよ。ところが叔母にはその理窟がどうしても判らないらしいのですね。僕
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