が決定された。
 嵐の去つたあと数は減つたが、秋川家は、以前より決して不幸ではなくなつたのである。
 そこで私であるが――読者もすでに察せられるだろうけれど、実は私一人はいささか憂鬱ならざるを得ないのだ。
 大家の一令嬢としてのひろ子でさえ、ちよつとつり合えぬ私である。そのひろ子は今や数十万の巨富を擁する主人となつてしまつたではないか。
 私の心の奥にいつともなく湧いた恋心は、一たまりもなく打ち挫かれねばならぬ。
 私は彼女を、人生の一地点でクロスした美しき女性としてただ頭の中に残しておくつもりである。
 藤枝はこの事件の後、時々ぼんやり考えこんでいる私によくいうのであつた。
「そうくよくよするなよ。何が幸になり、何が不幸になるか、一寸さきはまつたくくらやみだ。また何か事件がきつと来るよ。美しいお嬢さんが持ちこんでね。そうして今度はあんなブルジョアでないのがね」と。



底本:「殺人鬼」HAYAKAWA POCKET MYSTERY BOOKS No. 195、早川書房
   1955年(昭和30)年4月30日初版発行
   1995年(平成 7)年9月30日3刷発行
初出:「名古屋
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全566ページ中565ページ目


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