たか、そうでなければ彼女は必ず誰かに途中で会つている、とにらんだのだけれども、やす[#「やす」に傍点]が自身でやつたとはどうも思われない。一方秋川家の人々の様子はかなりおかしい。さだ子はトマス・ハーデイを読んでいて着物のままかけつけたというし、ひろ子はヴァン・ダインを読んでいたと云う。とにかく普通でない所へもつて来て伊達、さだ子が母と喧嘩をしたという事実がある。おまけに訊問に際してさだ子はヒステリカルな悲鳴をあげたし(悲劇を繞る人々第八回参照)伊達の事についてうそを云つている。こんな点から実は僕も、第一にさだ子と伊達、第二にひろ子を疑つて見たのだ。ところでここに偶然が非常な働きを見せている」
藤枝は手早くコンソメを片付けて次に出て来た伊勢海老をほほばりながらつづけた。
「君は僕が脅迫状を比較して二個のタイプライターが使用されていると云つたのをおぼえているかい。(誰を疑う? 第一回参照)あの時、僕がふと心に思い浮べたことがあるのだ。それは、同一の犯人が二個のタイプライターを使用しているのではなく、人間が二人いるのじやないか、ということだ。これはあとで考えると誤りで、打つたのは林田一人で
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