しい……全く世にも恐ろしい錯誤があると断言するのだ」
「とは一体何のことだい」
林田の言葉は緊張の為にいささか慄えをおびている。答える藤枝の言葉も同様だ。
「妻をとられた夫が、わが子に復讐をふきこむとき、とるべき最も深刻な方法は一体何だろう」
5
林田にはこの問はちよつと判らなかつたらしい。
「ねえ林田君、ここに一人の病身な男がある。彼は自分の妻の不義をだまつて見ていなければならなかつた。彼は相手を呪つた。呪つて呪つて呪いぬいた末に、ここに絶好な深刻な復讐を思いついたのだ。その復讐とは何か。子を父に、弟を姉妹兄弟に、肉身に対して肉身の復讐をすることなんだ。君、彼がわが子わが子と云つて最後まで愛撫し、最後まで仇討をたのんだその幼児は、一体誰の子だと思う? それこそすなわち不義の相手の子だつたのだ。正しくそれは自分の子ではない。自分の妻の子ではある、が、しかし断じて自分の子ではない。不義の相手の子である。彼はそれをよく知つていたのだ。それをよく知つていてその子に、全く自分が父であると信じさせ、そうして他人のつもりで相手の名を幼児の頭にふかくほりこんだのだ。可哀相に、その
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