した。
「嘘です。嘘です。断じてそんなことはありません。僕が、秋川家の者を恨む理由は何もないじやありませんか」
「ないどころか、大ありさ。秋川駿三はお前の仇だ」
「だつてそりや、おじさんが死んでからやつと昨日知つた事実なんです。それまでは僕何にも知つていなかつたんです」
「それなら、お前は昨日はじめて知つた、という証拠があげられるかね」
「母の遺書です。あれは昨日まで、たしかにあの秘密の戸棚にはいつていました」
「冗談云つちやいけない。母の遺書なんか見なくたつて誰からだつてあんな話はきけた筈じやないか。お前は里村千代という叔母に会つたことはないのか」
「会つたどころか、名をきくのさえはじめてです」
「そうか」
高橋警部はまだ中々満足しそうもないようだつたが、ちようどこの時刑事が、
「検事殿が見えました」
と云つてはいつて来たので目くばせで、一旦伊達をまた留置場に戻した。
そこへ、現れたのは奥山検事だつた。
「高橋君、里村千代という女のようすはどうだい。何だか大分新しい事実が判つたそうだね」
「はあ、大分新事実が現れました。しかしいずれも被疑者には不利なものです。が、ともかく、藤枝
前へ
次へ
全566ページ中453ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
浜尾 四郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング