がね」
 彼女のおどろきの表情は、図星をあてられたことを現していた。
「君自身の指はタイピストの指ではない。とすると、娘さんが働いているということになる。ここに夫に死に別れた後家さんが娘をタイピストに出しているとする。彼女は貧しい。娘も貧しい。世の中は渡りにくい。世の中の人が憎くなつた。こうなつた時この婦人は過去の深いうらみを又かみしめはじめ、味わいはじめたのだ。その悪魔のような男はいつのまにか非常な金持になつている。すべての金持が憎いこの女にとつてこの秋川駿三は一層にくい。そこへもつて来てこの女がヒステリー性の人だとすれば、脅迫状を送る位は何でもないのだ。君はそこで昨年から丹念にタイプライターで脅迫状を送つた。君がどうしてあれを打つたか、それは判らない。何も知らぬ娘に打たせたか、何かの機会に自身で打つたか、判らぬがおそらくは娘に打たせたのだろう。娘は母のヒステリーを心配しながらその命令に従つたのだ。すると、君の全く予期しない出来事が起つた。おどかしはいつのまにか現実となつてあらわれた。四月十七日に秋川駿三の妻がまず死に、次に駿太郎と女中とが殺された。君は全く驚いたが心の中では手を打つ
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