成程藤枝は弁護士ではない。しかし彼はかつて検事を勤めていた事がある。しかも平生正義という事をうるさい程口にしている彼である。たしかにひろ子が犯人でないと信じていながら、(少くも私にはそういう風に彼は云つた)一言も弁解してやらぬとは何たる醜態だ。
私の前で、いや御大層に大きな事を長々と述べたが、それは結局警察では一言も取り上げられなかつたのではないか。
私は余りの腹立たしさに暫く文句もいえず、思わず外から車の中に手をのばして彼の腕をつかんだ。
「おい藤枝? けしかけたとは何事だ。君、君は何故彼女の為に弁解してやらないんだ!」
生憎この時発車を知らせる警鈴が鳴つて、私は駅員に注意されて残念ながら車からはなれなければならなかつた。
「あははは。まあそう怒るなよ。ね、よく考えて見給え。よく! じや御機嫌よう」
一瞬の後ムキになつている私を残して汽車は悠々と行つて了つた。
プラットホームを歩きながら、私は、すぐにこのまま警察にかけつけて、警部に直接面会し、藤枝の吹いた同じ論理で警部をとき伏せ、是が非でもひろ子の為に弁じてやろうと勢こんでかけ出し、駅の階段から歩を地面にうつした途端、
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