こう云うと、彼は夢からさめたような顔付をした。
「うん、如何にも。ねえ、今の堂々たる論理、君は恐れいつたかい」
「徹頭徹尾!」
「小川、僕はひろ子のあのずばぬけた推理力を賞讃しかつ尊敬する。更にあの女性の直観力に無限の敬意を払うのに決してやぶさかではない。しかし、僕が彼女のテオリーに徹頭徹尾賛成かどうか、ということになると、多少そこに考慮の余地が出てくる」
「ほほう」
「君は気がついたかどうか知らぬが、ひろ子の説すなわち伊達正男、秋川さだ子共犯説には、見逃し難き二つの欠陷があるよ。第一は、四月十七日の犯罪についての点だが。徳子が昇汞を呑んで死んだことが判つた。そこでこの昇汞を彼らが如何にして手に入れたかという問題である。君も知つている通り、我国では特に毒薬劇薬を手に入れることがむずかしい。普通毒殺事件が行われた場合は、だから捜査官はまずかくの如き薬を比較的手に入れやすい人間に目星をつけることになつている。たとえば医師、薬剤師、それから化学者、その他、われわれ犯罪に関係ある職業をもつている者などだ。伊達、さだ子いずれかが昇汞を手に入れたとすれば、必ず警察の手で知れる筈なんだがね。これ
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