賞讃した犯人に似合わないね。この僕にだつて犯人の捜査範囲がだんだん判つて来たぜ」
「うん、それだ。僕が考えていた犯人はそれほど愚かであるわけがないのだ。僕は今難問題にぶつかつたのだ。全く僕は弱つてるんだよ」
 藤枝はほんとに弱り切つた顔でかたわらにおいてあつた紅茶を一口のんだ。
「しかし小川、たつた一つ、犯人が女でなかつたとすると考え方もある。もつともこれによるとやはり、第二の事件とちよつとうまくしつくりしないが」
「え? じや犯人は?」
「あのおやじね。秋川駿三さ。あれが犯人だと仮定すれば、今日の事件の一応の説明はつくよ」
「だつて君、おやじはずつとねていたはずだぜ」
「君自身それが立証出来るか」
 藤枝は儼然と私に云つた。
「成程」
「君はただ彼がその寝室にねていた、ときかされたにすぎない。誰も知らぬまに彼がそつとおきて風呂場に行かなかつたか、誰が証明出来るか。娘が風呂場にいる時父がはいつて来る。我国の習慣では少しもふしぎな事じやない。そこで事は一瞬の間に決せられたという次第」
「じや君は、彼が犯人だと思うのか」
「いやこれは一つの仮説さ。ただこんどの事件の一応の説明さ。しかしおや
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