のである。彼はもはや泣声すらもあげ得ない。
 駿三、ひろ子、さだ子、伊達らは、皆下の日本座敷に集つた。
 高橋警部は風呂場を一応調べると一分も無駄にせず、日本座敷に運ばれた初江の死体を仔細に観察しはじめたが、木沢、野原両医師に対して、必死の様子で重要な質問を出しているらしい。
 今回の事件は必ずしも他殺とは限らず、現に木沢氏もさつき云つたように、初江の入浴中に、癲癇《てんかん》か何かの発作がおこつて、一時意識を失いそのまま溺死したのかも知れない状態にあるので、今や医師の供述、観察は非常に重大なものとなつて来た。警部は、ひそひそと二人の医師と話をつづけた。
 ところへ、待ちに待つた藤枝が来たということを女中の久や[#「や」に傍点]がとりついだので私はいそいで玄関に出迎えた。
「驚いた! 電話でちよつときいたがもう一度詳しくききたいんだが……」
 誰もおらぬ応接間で、私は藤枝とさし向いになつて、今までの経緯をあらまし語つたのであつた。
 藤枝は、一言も洩らさずに黙つてきいていたが、風呂場の有様を語ると、彼は全く意外という表情を表わしたが、しかし何も云わぬ。
 ところへ林田がはいつて来た。

前へ 次へ
全566ページ中335ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
浜尾 四郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング