緊張しきつた面持で立ち現れた。私の説明をきくと警部はただちに風呂場を実見した。そこは、すでにさつき電話で藤枝に注意されていたので、私自身充分に見ておいたのだが、別に不思議な物も目につかなかつた。
警部は、そこにもう初江の死体がないのでいささか不平の形だつた。
「未だ見込みがあると思つたものですから、私達で風呂場から出したのです。絶望と知れば勿論手をつけずにおくつもりだつたのですが……」
「全くです。小川君のいう通りです。僕も一緒にあちらの部屋に運んで取りあえず僕が人工呼吸を施《ほどこ》したけれど駄目でした」
林田が私達の立場をよく説明してくれたので警部もこれ以上、口に出して不平を云わなかつた。実際あの場合、万一にも初江が助かるかも知れぬ、という気があつたから私は林田らと彼女を風呂場から運び出したのだつたが、あとで考えれば変死体を動かしたので、たしかに捜査官は多少面喰つたらしい。
このとき、ひろ子に助けられながら、驚いて駿三が二階から下りて来た。彼は事件当時、ベッドの中にはいつていたのだろう。さなきだに不幸つづきで弱り切つていた所へ、いままた、この惨劇の報を文字通り寝耳に水とうけた
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