「そうでございましようか」
「つまりこうなんでしよう。昨夜伊達君が一旦御当家を辞した後、二階であなたと話していた。そこへ林田君が来たのであなたは林田君を自分の部屋へつれてはいられたその後、伊達君がたしかにまつすぐにうちに帰つたかどうかが自分で証拠をあげられぬというんでしよう。ねえ」
「はい」
「それ以外に何か心配な事はあなた御自身でも何もないのでしよう。たとえばその伊達君が、邸内をうろうろしているのを誰かに見つかつたなんていう事はないのでしよう」
「そ、それは勿論でございます」
 さだ子はこの言葉を極めて力強く云い放つたけれども、その声は明らかに異様な慄えをおびていた。彼女は必死でこの言葉を発したように見えた。
 藤枝はこのようすに気がついたかどうか、急になぐさめるような調子で語りはじめた。
「それごらんなさい。何ら積極的な嫌疑は、伊達君にはかけられていないのですよ。安心なさつてよいでしよう。――時に、これは婚約者の事に立ち入つて甚だ恐縮なんですが、一体、伊達君が二度目にもどつて来てあなたにお話したというのはどんな重大な事なのですか? もし云つてもいいのでしたら承りたいものですがね」
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