あげて、
「いえ、どう考えても左様なことを致したおぼえはありませぬ」
 ときつぱり云い切つた。
「じやお前に云うが、お前が昨夜話したという佐田やす子は、すぐあの後、首をしめられて死体となつて発見されたのだ」
「え、何ですつて? やす子が……殺された……」
 若者は思わずこう云つたが急に今まで緊張していた表情が弛緩して、ぼんやりした目つきになり、唇がだらりとたれ下つた。
 この様子を見ると、彼は、やす子が死んだのを、今まで全然知らなかつたという外ないが、犯罪人のやるうまい狂言はこうした時に巧みに行われるものだから反対にこれを実に上手な芝居だと解釈することもできるわけだ。
 警部は若者のようすをしばらく黙つてながめていたがやがて問を発した。
「じやお前は、今までやす子が殺されたのを全く知らなかつたのかね」
「はあ、全く……」
 いかにも全く知らなかつたように早川は答えた。
「それじやきく」
 警部の調子は急に厳然となつた。
「お前は何故ゆうべおそく、つまりけさ早く新宿駅をうろうろしていたのだ。さつき云つただけのことならまた下宿に戻つていればよかつたじやないか。お前がどこかに高飛びをしようと
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