さつさと出て来いよ」
こんな会話が一応電話で行われてから私はすぐに彼のオフィスにかけつけた。
相変らず、彼は部屋中を一杯の煙にしてその中の大きな机に向つて腰かけていた。
「昨夜はどうも御馳走様。相変らずああいう所で大もてだね。羨望に堪えずだな」
「いやまつたくあれこそ小川氏曰く、どうも面目次第もありませんという所だよ」
「僕は昨夜あれから殆ど眠らず事件を考えつづけた。一晩かかつて注意すべき点だけをノートに取つて見たが、ねえ君、いつか云つた言葉をいよいよ取り消さなくてはならない」
「何だい」
「探偵小説に出て来るような稀代の犯人がやはりこの世にいるということだよ」
2
「稀代の犯人?」
「そうさ。稀代の大犯罪人、稀世の殺人鬼、比類なき大悪漢、いや暗黒街のナンバーワン。犯罪界のカイゼル、無比の大英雄、罪の国のナポレオン、犯罪芸術のベートホーヴェン、大天才、大秀才、という讃辞を奉つてもいい。いよいよそういう人物が今や僕の敵手として現れたのだ。仮りにもし僕が今考えている通りだとすればね」
私はいささか呆気に取られた形であつた。
「ああそうそう、それからもう一つ、昨夜、君の
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