朝刊に間にあうまでに記者に会う筈はないから全くの創作だろうが、まさにこれは御両所の云わんとする所であろうと私にも思われるから、まんざら与太とも云えまい。ただし、犯人の目星云々は少々早すぎはしまいか、とよんで行くと、案外にもどの新聞にも犯人の目星はついているから今明日中には捕縛されるであろうと書いてある。これは当局の言としても記されている。
 さてはあれから裁判所の連中は有力な手係りを見出したのか、そうそう警視庁の連中も塀を越えた怪漢のあるのを確かめた筈だ。では佐田やす子の素性も判つたのかな……
 あれ程秋川一家を脅かした怪人も、案外脆くも捕まるのかしらん……こんなことを考えながら私は藤枝の事務所に電話をかけた。
 ゆうべの約束も思い出したのだが、元来、大寝坊の彼のことゆえ、まだ事務所にご出張がないといけないと思つたのである。
「昨夜は失敬、小川だよ」
「ああ君か。すぐ来いよ。おそいじやないか」
「まだ君がねているかも知れないと思つたのでね」
「どう致しまして。近頃は大変な早起きだよ」
「新聞を見たかい。藤枝氏曰くどうも面目次第もありませんだつてさ」
「おい、くだらぬことを云つておらずに
前へ 次へ
全566ページ中193ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
浜尾 四郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング