エードか何かを一杯命じたまま、ジャズと喧騒のバーの空気にも一向心を動かすようすもなく、眠そうに傍のクションに身をもたせて一言も発せず天井を薄目をあいては時々見ている。
「まあ、こちら、変な方ね。オレンヂエードに酔つてるの」
なんて女給にからかわれてもまるで気にする様子もない。
私は私で藤枝には少しもかまわず、搾取主義の女給達の云いなりほうだい、カクテールをのんだりのませてやつたり、果物を御馳走したりしていいかげんいい気持になつてしまつた。
「Wein, weib und Gesang か」
ふと彼はこう云つたかと思うと立ち上つて、
「おい僕は先へ帰るよ。じやあした朝オフィスへ来給え。左様なら」
呆気にとられている私や女達を残して消え去つた。
殺人交響楽
1
四月二十一日の朝八時過ぎ、私は目をさました。
前夜久しぶりにバーにはいり、分別盛りの年甲斐もなくいい気持になつちまつて藤枝においてけぼり[#「おいてけぼり」に傍点]を食わせられてから、まだおそくまで残つていて大分酔つて戻つたのだが、酒のために床に入るとそのまま、恐ろしい殺人事件も何もかもすつかり忘
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