秋川邸の門を出ると藤枝は右に曲つて歩き出した。この家をはじめて訪問した時帰りは円タクを捕まえて乗つたのだが、二日目からいつも秋川家に出入りしている泉タクシーというガレーヂから車に乗ることにしていた。
 泉タクシーの前で藤枝は暫くそこの主人と話していたが、そのうち一人の運転手が出て来て藤枝に挨拶した。
「あ、君かい、じやあの日の通りに行つてくれ給え」
 こういうと彼は、傍にスマートな形をして乗客を待つているハドスン・セダンのドアを開けた。私もつづいて乗り込んだ。
 私は車がどこへ行くのかしらんと怪しんでいると、自動車は牛込の高台から外濠へまわり、四谷見附を通ると坂を下つて一散に赤坂に向つて走つてゆく。
 赤坂見附から溜池の方に更に走つたが、電車の停車場と停車場の間でピタリと止つた。
「いやご苦労様」
 二人は下りた。車を返してしまうと藤枝は少し進んで左手の敷島ガレーヂというのにはいつてそこでまた何か云つていたが、やがて私をさし招くので行くと彼はクライスラーのクションに既に腰かけている。私は驚いておくれじとあとからつづいて乗り込んだ。
 車は溜池から虎の門に出てそれから右に曲ると南佐久間
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