た腰をおろしたが、そのとき、部屋のドアが開いて、そこに一人の若い婦人が現れたのであつた。
私は、その婦人を見た瞬間、思わずあつと叫ぶところだつた。
それはただ美しいとか、気高いとかいう意味ではない。私は、このときほど、自分の直観を確信させられたことはなかつたのである。
私は、さつき藤枝の所に若い婦人が訪ねて来る、ときいた時から何となく、好意のもてるような、美しい婦人のような気がしたのだ。それからつづいて、秋川ひろ子という名をきき、その筆蹟を見てから私は早くも、品のいい美人を頭の中に思い浮べたのであつた。
藤枝のような、なんでも理窟できめなければならぬ男は、筆蹟からは容貌は断定出来ないと云つているけれど、私は早くも、これだけから、私が好きになれそうな美しい婦人を頭に描いていたのだ。
それがどうだ。今、ドアの所に立ち現れた若い婦人は、まるで自分の考えた通りの美人ではないか! 名などはもうどうでもいい、秋川ひろ子の偽物であろうが、なかろうがそんな事はどうでもいい。
しかし、事件は相当なものでなければならぬぞ。藤枝が冷淡に拒絶してしまうような事件では、困るぞ……いや、私は自分の事ば
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