、現に秋川製紙会社々長、その他某々会社重役、云々(ここに種々な役名が書いてあるがここには略す)
家族は、夫人徳子(四十五才)長女ひろ子(二十一才)次女さだ子(十九才)三女初江(十八才)長男駿太郎(十五才)
[#ここで字下げ終わり]
これが興信録に表わされた秋川一家の記事である。
7
「成程、これで見ると立派な家のお嬢さんだね」
「さあ、そのほんもののお嬢さんが来てくれれば、君も御満足だろうが、僕にはそんなことよりも事件そのものの性質の方が気になるよ」
「あいかわらず、藤枝式だな。美人に恋せず、女を信ぜずか。どうも君という人間は妙に出来ているんだな」
私がこういい終つた途端、ベルが鳴つて訪問者がオフィスの戸の外に立つてることを報じた。やがて戸が開いたらしく、三十秒ばかりたつと、われわれのいる部屋に、給仕が一葉の名刺をもつてはいつて来た。
「うん、どうかこちらへ、といつて御案内してくれ」
藤枝はこういつてちよつと私のほうを見た。
こういう場合にはいちおう遠慮するのが道だから、私も立ち上つて座をはずそうとすると、彼はいつものように、目でそれを止めたので、私は一旦上げ
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