がありますわ」
ひろ子はその半ば開かれた戸の下にぬぎ捨ててあるスリッパを指した。
「あら、庭下駄がない! じやきつと庭に出たのかも知れませんわ」
早口に云つた。
「ともかく藤枝君にいいましよう」
私にはこの場合たいした智慧も浮ばなかつたので、急いでひろ子と共に応接間に戻つて来た。
藤枝は非常に何か心配な様子で私達が戻るとすぐ立ち上つた。
「おい、見えなかつたかい」
「うん、便所にも二階にもいないらしい」
私がこういうと傍からひろ子がひき取つて答えた。
「あの、庭に出たんじやないかと思われますの。廊下にスリッパがぬいであるし、庭下駄も見えませんので……」
藤枝は何も云わずいきなり高橋警部の肩をつかんだ。
「高橋さん、もしかするとこりや大変な事になる。すぐ庭へ出ましよう。一刻も早く!」
彼はこういうと驚く警部や駿三や私を残して玄関へ飛び出した。
彼のこのあわて方が尋常でないので警部も駿三も余程驚いたらしく、ことに警部はさすがに、瞬間に藤枝の気持を察したと見え、すぐに玄関へ出て靴をつつかけた。私も、二人におくれじと玄関へ出て自分の靴をつつかけたまま、藤枝と警部につづいた。
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