藤枝の方に助けを求めるようなまなざしを送つた。様子をみた私は、立ち上るといきなりドアの方にかけ出して、
「いいですよ。僕が行つて止めて来ます」
「ああ小川君、君行つて駿太郎君にそう云つてくれよ」
 藤枝にこういわれると、私は駿三がしきりに何か云うのもかまわず一人で部屋をとび出してさつきのピヤノの部屋にいそいだ。
 ノックをすると同時に私はドアをあけたが、これは意外、部屋の中には誰もおらず、ヴィクトローラ一人相変らずいい音をさせているではないか。
 私はとりあえず、ヴィクトローラの所へ走り寄つていそいで蓋をあけた。丁度その時レコードはショパン独特のあの婉麗極まりなきトリオの部分を奏ではじめている所だつたが、私はいそいでアームをあげてそれから廻転を止め、そのまままた応接間に戻つた。
 (後に詳しく調べて判つたことだがこの時、駿太郎がかけ放しにしていたレコードはヴィクター版で Ignace Jan Paderewski の演奏にかかる Funeral March(Chopin op.35)で私がとめた所は丁度トリオのはじめの部分、藤枝があとで親しく実験した所では、正規の廻転で、はじめからここ
前へ 次へ
全566ページ中153ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
浜尾 四郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング