も一本つまんで、右手でライターをパッとつけると林田が口にもつて行つたシガレットに火をつけてやろうとした。
ちようどその時、庭の方から草笛のような声が聴えて来た。窓があけてあつたので私ははつきりきくことが出来たのだが、別に怪しい音ではない。近所を通る書生か少年がいたずらに木の葉を口にあててふいているとしか思わなかつたのだが私が妙に感じたのは、その時のやす子の顔付だつたのである。
藤枝と林田の二人はちようどシガレットに火をつけてやり、またつけてもらつている瞬間だつたので、あるいは草笛をきいたかも知らぬがやす子の方は見ていなかつた。
やす子はその時入口の所でかるく会釈をして室外に出ようとしていたが(偶然かどうか私にはその時よく判らなかつたが)窓越しに遠くから草笛の音がきこえて来るや否や、はつとしたような顔付をした。一言で云えばそれは驚きと恐怖の表情だつた。
一瞬にして彼女はドアの外へと出て行つてしまつたのである。
この時のやす子の表情とあの草笛の音とを結びつけて考え得る人間は私一人だつたのだ。
もし私がすぐその場でこのことを藤枝と林田に告げればあるいはこの直後に起つた惨劇を防ぎ得
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