気がつきましたのですが、母の部屋から父の寝室に通つている戸がなかから鍵がかけてございましたので父は表の戸をこわしてとびこんだのですけれど、こんなことから考えますと、きつと母は父に対して恐怖と憎念とを抱いていたのではないでしようか」
「もう一つおたずねします。お父さんの例の恐怖はただ自分のいのちだけのように思いましたか。それともあなた方にもしきりと警戒するように云われましたか」
「それはこの前申し上げた時と同じく、このごろになつてからますます盛んに云うようになりました。私ら子供に対してもまた母に対しても、しきりに気をつけるように申しておりました」
「成程……すると、今までの話では、お母さんがお父さんを憎みはじめた。それからあなたがさだ子さんの素性を疑りはじめたということになるのですね。もつともさだ子さんの方のことは単にあなたの疑いにすぎぬが……」
「いえ、ただ私の疑いばかりではございませぬ。とうとう母がそれについて私に申しましたのです」
4
「お母さんが?」
「はい、しかも昨夜のことでございます。私は母と伊達さんがどつちも気まずいような顔で話しており、さだ子がまた母と大分
前へ
次へ
全566ページ中134ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
浜尾 四郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング