しかにそうなのです。三分の一だか四分の一だかそれは私存じませんけれども、ともかく母の方はそんなにやることはない、そんなことには絶対に反対だ、というようです。父は父でどういうわけか、また自分の云い分を決して一歩もひかないのでございます。これはまことに妙なお話なのです。何故つて、父はさきにも申しました通り脅迫状の一件で何事にも恐怖心をもつており、そんな剛情をはる気力もないのに、このことになると、大変な見幕になるのです。母は元来おとなしい女で、今まで父と争つたりしたことはないのですけれど、やはりこの問題にふれると大変むきになつて、ヒステリーをおこしてしまうのでございます」
「たとえばどんな調子なのです?」
「ある時母が云つた言葉は、『あんなどこの馬の骨だかわからないものにそんなにやるなんて……』というような事がありました」
「どこの馬の骨? すると伊達のことをさされたのでしようね」
「ところが先生、すぐそのあとから『相手の男だつてどこの者だか判りやしない』という言葉が母の口をついて出たのでございます」
3
藤枝は左右の手の甲を交る交るこすりはじめた。これは彼が非常な興味をも
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