とは必ずしも信じないよ。仮りにこの事実を探偵小説だとして、真犯人があの家の娘の誰かだとすれば、作者は余程腕がないと云わなけりやならない。それじやまるでヴァン・ダインの小説の通りだからな。……もつとも作者はわざと読者の裏をかいてそんな所に犯人を定めるかも知れないが……ともかくわれわれは小説中の人間ではないからね。しかし、くり返して云うが、ひろ子が昨夜、ヴァン・ダインのあの小説を読んでいたという事実は、今度の事件のうちで非常に重大な意味をもつていると君は思わないかね」
「とはどういう意味だい」
 けれど藤枝はこの問には答えずそのまま黙りこんでしまつた。
 車はいつの間にか麹町区を通りぬけて、人通りの多い銀座の通り近くを走つている。
 私は藤枝の言葉をいろいろに考えて見た。
 成程、今藤枝の云つた通り、脅迫されて青くなつているひろ子が、昨夜、あの恐ろしい探偵小説を読んでいたということは、ほんととすれば――いやたしかにほんとに違いない、あの美しいひろ子が何でうそなどいうものか――余程不思議な事実である。
 彼女は悠々とあの小説によみ耽つていたのであろうか。それとも何か他に目的があつて読んでいた
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