こそ今頃、どうしたんだい、この裏の事務所にいるんじやないのか」
「今ちよつとひまなのでね、三時半になるとお客さんが見えるがそれまで用がないので、ちよつと散歩に出て来たんだよ。たいてい君みたいなひまな男にぶつかると思つてね。……もつとも今みたいに文字通りにぶつかるとは思つてなかつたがね」
「あははは。そうかい、そりや丁度いい。僕も誰か相手をつかまえてお茶でも飲もうと思つてたところなんだ。じやここへはいるか」
 私は早速彼をさそつて、そばにある喫茶店へと飛び込んだのであつた。
 店の中は、よい按配にすいていたので、二人は傍《かたわら》のボックスにさし向いに坐りながら、ボーイに紅茶と菓子を命じた。
「おい小川、僕はこうやつてさし向つて腰かけるが、これは何故だか判るかい」
「あいかわらず、藤枝式の質問をするね。話をする為じやないか。つまり二人で語り合うために最も自然で便利な位置をとるのさ」
「そうさ。ところで君はこういう事実に気がついているかい。こういう位置をこういう場所でとるのは、ある人々にとつてのみ自然であるという事さ」
「なんだつて。ちよつと判らないね」
 私はこういいながら、ボーイが運
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