ばして平気で進んで行き勝ちになる。それとまるで同じ事よ。
「さて、林田が犯人ではないかなと考えて来るとどうだい、万事都合よく説明がついて来るじやないか。やす[#「やす」に傍点]子が早川辰吉と会つた後、林田がやす[#「やす」に傍点]に会つたとすれば彼ならば確かに沈黙させる方法をもつている。すなわち、さつき云つた第一テーマさ。それから彼なら従来、駿三に送られた脅迫状を見ているからそのまねをして自分で書き得る。十七日の午後に駿三が彼の所に行つているから、第二のテーマすなわち薬のすりかえも思い付く。それに彼ならば秋川家の状態が如何に犯罪に利用し易いか観てとれるだろう。しかし第二の事件の時に彼はたしかにさだ子と二階にいた筈だが。……これはかなり重大な疑問だつた。しかしこれは、考えた末、やつと解けた。あいつさだ子のアリバイを立てて実は自分のアリバイを立てているのだ。ではどうしてさだ子を沈黙させたか。さだ子が彼を充分信頼しているのは何故か。こう思つて来るとここに第一テーマが又ひびいて来たんだ。早川辰吉の供述中に、やすが自分に大変親切な方がある[#「やすが自分に大変親切な方がある」に傍点]と云つたというのがあつた、それと同じ手だとやつと悟つたのだ。君は四月二十一日に僕が秋川邸でさだ子に『それ以外に何か御心配なことがあなた御自身でも何もないのでしよう。たとえば、その後伊達君が邸内でうろうろしているのを誰かに見られたなんていうことはないんでしよう』とやつたら『そ、それは勿論でございます』とあわてて云つたけれど、明らかにあれはうそだという表情だつたが、あれをおぼえているだろうね。(あらしの前第五回参照)これで僕は一層確信を強めたんだ。
3
「林田としてはあのレコードのことを僕にきいて来たのも大失策さ。あいつ俺の音楽青年だつたことを知らないのだ」
「やはりあれも盲点の一つかね」
「うん、ともかく失敗だつたよ。さあこう考えて来ると林田が正しく犯人だ。皮肉にも彼は僕らと共に犯人を探しまわつている。ただ判らないのは、一体何のために彼が秋川一家を恨んでいるのか、ということだ。伊達の素性の方は、さきに手がまわしてあつたから大ていあの時分に判つた。駿三が君に語つた以上に僕にはあの頃になつては判つていた、ことに今から二十年前の出来事だつたから、姦通事件もほぼ今泉町の人々の口から知ることが出来たが、林田の方はさつぱり判らぬ、そこで僕はあの病気の間を利用して出来るだけ彼の素性を探らして見たけれども、東京に出てからの事は判つたが、その前の事はどうしてもはつきりしない」
「そうそう、君が病気の時に僕に三ヶ条の問題を出したつけね。第一、一番危険な場所は秋川邸内だ、と云つたね。あれはどういうんだい」(第三の悲劇第四回参照)
「もし犯人が林田だとすれば、必ずやつは秋川邸内をえらぶに違いないのだ。それはあの位えらい奴の考えそうな事なんだよ。事件を深刻にする為。ミステリーを深くする為。つまり彼の虚栄心さ。同一の邸内で殺人をつづけて行くことは極めて難しい。しかし俺はやるぞ! というつもりなんだ。ちようど自惚れの強い探偵小説家が、同一の場所で度々人を殺すのと同じさ。極めて困難な仕事だし、読者からは動きがないと批難されるだろうが、でも作者はこの一番困難な作を完成しようとするつもりなのさ。外でやればほんとの犯人にとつても作者にとつてもわけはないのだがね。林田にはやはり自信と自惚れと、しかして稚気とがあつた。林田ならきつとわざと困難な方を選ぶと僕は思つたんだ。のみならず、秋川の家族に嫌疑を蒙らせるのにも都合がいいからな」
「では第二、誰でも一応疑えというのは、君は林田をも疑つていたということだね」(同上参照)
「そうさ。しかして第三の伊達が警察にとめられている限り殺人事件はおこらぬ、というのは、伊達が犯人だという意味ではない。林田が犯人だからさ。林田はすべての殺人の嫌疑を伊達にかぶらせようとしているのだ。従つて彼が警察にとめられている間は、林田は手を下さない。伊達の行動があいまいな時をえらんで必ずあいつ、ことをするのだよ」
「僕にはどうしても判らぬことがある。君がそれだけ林田を疑つていたならば、何故、早く警察に訴え出なかつたのだ。そうすれば初江は少くも助かつたかも知れないじやないか」
「ああ、君の批難は一応もつともだけれども、二つの理由からして僕は弁解するね。第一は、今となつてこそ僕ははつきりいつているがあの当時は今思う程の自信がなかつたのだ。というのは、何故彼があんなまねをするかということが判らなかつたしすべてが一つの推理の上に立つていたからね、他のもう一つの重大な理由は僕が法律家だからさ。いいかえれば僕は法律というものがどの位力のないものかをよく知つているからだ。かりにあ
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