載している。
それによると、犯人は伊達正男で昨夜の中にただちに捕まえられ、厳重なる訊問の結果、包みきれず全部昨日の殺人を自白した[#「殺人を自白した」に傍点]という事になつている。しかも駿三殺害の動機は遠く過去に遡つて、今より二十年前、伊達家と秋川家とが悪縁に絡まれたところに端を発しているのだ、というようなことがまことしやかに記されている。
もつともその悪縁物語というのが何であるかということは詳しく書いてはなかつたが、これで見ると、昨夜藤枝は軽卒にも、記者達に対しておしやべりを敢てしたらしい。
記事はいずれも確定的で伊達正男が自白したということを記してあること既述の通りである。
私はしばらくあつけにとられて床の中で煙草をくゆらしながら天井を見つめていた。
ところへ、あわただしい電話のベルだ。いそいで出て見ると、高橋警部の緊張しきつた声がきこえる。
「小川さんですか。あなた藤枝君が今どこにいるか知りませんか。いいえ、うちにはもういないんですよ。オフィスの方にもいないらしいですが。そうですか。そちらに見えないとすれば……では仕方がありません。もしか来たら私が会いたがつているとしらせて下さい」
高橋警部は、藤枝の余計なおしやべりにかなり腹を立てているらしい。会つて何とかとつちめるつもりなのだろう。
ところが、警部の電話がすんで五分ほどすると今度は藤枝からかかつて来た。
「オイ、君どこにいるんだ。今警部から電話がかかつて、君の行方をつきとめてくれつていうことだつたぜ。先生ひどくおこつてるよ」
「うん、そうだろう。そんなことだろうと思つたから早くからうちを逃げ出していたんだよ。しかしいつまでも、姿をくらましているわけには行くまいから、ひる頃には警部を訪問するつもりだ。君にも一緒に行つてもらいたいからずつとうちにいてくれ給え」
彼はこういうと、さつさと電話を切つてしまつた。
6
ちようどひるのサイレンが鳴つてまもなくのこと、私は再び藤枝から電話をうけた。
「これからすぐ警部にあいに行く。君はすぐ自動車で牛込署の前まで行つてくれ」
というのだ。私はただちに彼の云う通り、車を捕えて指定の場所にといそいだ。
私が下車すると二分程おくれて藤枝がやつて来た。
「さあ、警部に謝まりに行こう、大分怒つているらしいから」
二人が主任の部屋にはいると高橋警部は苦り切つた面持で現れたが、さすがにいきなり藤枝を叱りとばすわけにもいかぬらしく、だまつて椅子に腰かけた。
「昨夜はどうも失礼しました。今日の新聞記事でお怒りのことと思いますが……」
藤枝の方が先手を打つた。
「きのうあなたが帰りがけに私に相談されたので云つていいことだけは申したつもりだ。私もまさかあれ全部をあなたがしやべつたとは云いませんがね。しかしあなたからより外洩れぬようなことが出ているのでね」
「高橋さん。今日一日待つて下さい。いや一日でなくてもいい、もう数時間たてば私がなぜあんなおしやべりをしたか、ということがはつきり判りますよ」
藤枝のこの謎のような言葉は、しかし高橋警部の機嫌をよくする役には立たなかつた。
「何のことか私には判らんが」
「いや、必ず判るのです。きつとですよ」
けれども、われわれは一日も、いや数時間も待つ必要はなかつた。
藤枝のこの言葉に対して警部が何か云おうとした途端、ドアがあいて一人の制服を着た[#「着た」は底本では「来た」]巡査があわただしくはいつて来た。
「警部殿、今へんな女が一人とび込んで来ました。警部殿に是非お目にかかりたいというんです」
これをきくと藤枝は、すつくと立ち上つた。
「犯人は伊達正男でない! というんだろう。そして自分が犯人だ、というんだろう」
巡査が驚いて藤枝を見ながら、
「そうです。その通りです」
と答えた。
「それだ。それを俺は待つてたんだ。さ、高橋さん、すぐあいなさい。すぐです。その女が何と云うか早くきくのです」
高橋警部は事の意外に少し面喰つたようだつたが、さすがにあわてずそのままだまつて立ち上ると、ドアのかなたに姿を消した。
「一体、どうしたんだ。君はその女が出て来るのを予期していたのか」
「無論だ、僕のテオリーがまちがつていないとすれば、その女が死んでいるか、病気でない限り、必ずここか検事局に登場しなければならないはずだつたのだ。今日の新聞記事を見た以上はね」
私がつづいて話をきこうとした刹那、隣室で、何だか騒がしい音がしたと思うと高橋警部のあわて切つた声がきこえて来た。
彼はしきりに野原医師をよんでいる。
「しまつた。今殺してしまつてはいけない」
藤枝がいきなり私の腕をつかむと許しも乞わずに隣りの室にとびこんだ。
私はその室に二人の人間を見た。一人は高橋警部で、もう一人は
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