ていたことを知つたのです[#「宿命的な関係に立つていたことを知つたのです」に傍点]」

      7

 藤枝がここまで語つて来ると、ベッドの上に坐つていた秋川駿三は、もはやきくに堪えぬというように、手を振つて藤枝を黙らせようとした。はたで見ていても、ほんとうに気の毒らしいあわて方であつた。
 木沢氏は、なりゆきが余り面白くないのでこれもちようど藤枝に注意しようとしているところであつた。
 この様子を早くも見てとつて藤枝は制するように語りつづけた。
「秋川さん、御安心なさい。私はこれ以上、何も申し上げませんから。あんな惨劇、あれだけの犠牲を払つてもなおあなたが守ろうとする秘密を、私は決して軽率にも口に出すようなことはしますまい。ただ一言申し上げておきたいのは、この藤枝真太郎だけはこの秘密を十中八九完全に知り得たということです。そうして、私の知り得た所にして誤りなくんば、あなたは脅迫状が誰人《だれびと》によつて、何故にあなたに送られたかを知つていらつしやるはずである。そこです、私が今うかがつた用件は。ねえ秋川さん、あなたには脅迫状が誰から送られたか、全くあてがつきませんか」
 駿三は一言も発しない。自信に富んだ藤枝の前で、一体どう答えたらよいのか迷つているように見える。二十日の夜藤枝が駿三にせまつた時とは大分事情をことにしている。藤枝は今や秋川家の秘密を探り出してしまつたのである。少くも探り出したと称している。
「秋川さん、どうか周囲の事情をよく考えて下さい。警察ではひろ子さんを疑つているようです。令嬢方のことをお考えになつてどうしてもそれを云つて頂かぬと困ると思うのですが」
「判りました」
 はじめて駿三が力なく云つた。
「しかし私にもほんとうは誰が送つて来たかわからないのですが」
「ではどうでしよう。こう考えて見ましよう。あなたと私二人だけが知つている秘密から察すれば、あなたにああいう脅迫状を送りそうな人間は、伊達捷平すなわち正男の父の兄弟から、でなければその夫人かよ子の兄弟たちだということになります[#「伊達捷平すなわち正男の父の兄弟から、でなければその夫人かよ子の兄弟たちだということになります」に傍点]」
「…………」
 駿三は無言だつたが、仕方がないというようすで首をたてにふつた。
「ところが、捷平には御承知の通り、まるで親類というものがなかつた。して見るとこれはどうしても夫人の方の関係と思わねばならない、ところで伊達かよ子の親戚のものですが、私の調べたところによると、その妹で一人今どこにいるか判らない女がいます。例の電話の一件といい、いろいろな事から考えて、今度の事件には女がかくれていると思われるのですが、伊達捷平の妻かよの妹が、姉の秘密を知つているとすれば、この女がまず怪しい」
「そうです。私にもそう思われぬことはありません」
 駿三は、藤枝がほんとうに自分の秘密を知りつくしているらしいようすを見て、もはやこれ以上かくしているのは無駄と思つたか、今度ははつきりと云つた。
「あなた、その女がどこにいるか判りませんか?」
 しかし駿三はこれには答えようともせず、急に坐りなおつた。
「藤枝先生、恐れ入りました。すべてが先生に判つている以上、もうかくしているのは、無駄だと思います。私の過去の秘密をここで全部物語りましよう。それについては是非お目にかけるべき品がありますから、それを取つて来ます。重要な書類があるのです」
「あなた自身でわざわざ行かれぬでも私が」
 木沢氏が、心配そうに口を出した。

      8

「いえ、私でなければ判らぬ所に入れてあるのです」
「秋川さん、あなたはその重要な書類をこのうちの中にしまつておいたのですか」
 藤枝が意外だという表情で訊ねた。
 駿三はベッドから足を出してスリッパをつつかけながら、
「私もどこかの銀行の保護箱にでも入れておく方が安全だと思つてはいたのですけれど」
「いや、安全危険というより、私はあなたが、そんな過去の秘密に関する書類を今まで取つておいたのが意外だというのです」
 駿三はよろめきながら、驚いている木沢氏その他をあとにしてドアの所まで行つた。
「何故それを今までとつておいたか、今出す書類でお判りになります。あ、木沢先生、御親切は感謝しますが、その書類はごく秘密なかくし場所に入れてあるので、勝手ですが私一人で行つて来ます。しばらく皆さんどこにも出ずにここでお待ち下さい」
 駿三はこういうとドシンとドアをしめて出て行つた。
 肉体的には大病人ではないとは云え、今までずつとねていた駿三が急に一人で立ち上つたので、木沢氏も大分おどろいたらしいのだが、駿三の言葉は極めて厳かで、一人でもあとからついて来るもののあるのを禁じているようだつたから、われわれ三人は黙つて室の中に残つ
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