日来ます。警察の方の事も判り次第おしらせしましよう」
 われわれがひろ子の部屋を出ると、すぐそばの部屋から、さだ子もおくりに出て来た。
 ひろ子はそれを見ると、われわれのさきに立つて歩き出した。さだ子は小声で藤枝に、
「先生、伊達さんの事をどうかよろしくお願いいたします」
 と歎願するように云つた。
「大丈夫ですよ。警察の方の工合も判り次第おしらせしますから」
 そのまま階段を下りて玄関にゆき、靴をはくと、藤枝は二人の令嬢に礼をしながら門を出た。
 出るや否や彼は煙草屋にはいつてエーアシップを二つ求めて早速うまそうにすいはじめた。しかし何となく元気がないように見える。
「じや君、僕は今日はこれで別れよう。用が出来たら電話で報知《しらせ》るからね。何だか少し、疲れちまつたよ」
 われわれはそこで袂を別つたのである。
 これで四月廿一日は暮れた。

   第三の悲劇

      1

 あくれば四月二十二日である。
 十七日の夜の事件、すなわち第一回の悲劇以来、藤枝は割合に早起きで、私を電話で呼び出したり、またこつちからかけても、起きていると見えて直ぐ電話に出て来るので、今朝ももうかかつて来る時分だと思いながら、私は朝食を早くすましていた。殊に昨日秋川家を辞する時、主人に拒まれぬ限り、また来ると云つた所から考えてもきつと私をさそうに違いないので、私はいつでも出かけられる用意をしていた。
 十時頃になつても、しかし電話はかかつて来なかつた。さてはさすがの彼も、この大事件にぶつかつて頭を悩ましたため、とうとう元の大寝坊に戻り、正午《ひる》のサイレンと共に今日はおきるのかな、と心ひそかに焦れながら待つていると、十一時近くになつて電話のベルがなりはじめた。
「そら、こそ」
 とばかり私はいそいで受話器を手に取ると、意外にも女の声がきこえる。
「小川さんでいらつしやいますか。私藤枝の母でございますが……」
 藤枝が母と二人暮しでいることは、すでに諸君が知つておらるるところである。
 電話は藤枝の家からかかつているのだが、話しているのは彼の母である。私は思わずドキリとした。
 が、母の話はそう大して驚くほどのことではなかつた。今朝から藤枝が発熱していて起きられない。しかし、彼が私に至急何か重大な用件を話したいというのである。そこで甚だ恐縮だが、自宅に来て会つてくれということであつた。
 無論私はすぐに彼の家にかけつけた。
「今電話でうかがつたが、どうかしたのかい」
 私は彼の部屋に通されると、すぐ、つまらなそうな顔をしてベッドに身を横たえている藤枝に声をかけた。
「うん、大したことはないんだがここをやられちやつてね」
 こう云いながら彼は咽喉を指さしたが、成程、声が大変にかすれている。
「つまらん遠慮をしてひどい目にあつた。あのM・C・Cだよ。いつたい僕は君も知つてる通り、エジプト煙草を喫わないんだ。僕はいつも、エーアシップだのヴァージニヤンリーフの煙草ばかり喫つているので急に変つた煙草をやると必ずのどを悪くするんだ。以前にも一度こんな事があつたよ」
「じや、昨日秋川の処でエーアシップを女中にでも買わせればよかつたな」
「そうさ。それは知つていたんだが、暇をとるとかとらないとかいつている女中達に余計な用を云いつけて秋川家の人を困らすのもどうかと思つたので、あのエジプト煙草を、たてつづけに十本喫つちまつたんだ。つまり僕のいじきたな[#「いじきたな」に傍点]からおこつた事だから誰にも文句は云えないが、おかげで今朝からすつかり咽喉を腫らして熱があるんだ。大したことはないが八度ほどある。それで僕は今日出られないんだ」
「そりやひどい目にあつたね。して用事というのは」
「その事さ。僕のかわりに僕が起きられるまで秋川家の人々を――保護、というか、監視というか、ともかく怠けずに注意してもらいたいのだが」
「ふうん。というと、君は将来、まだあの家に何かおこると思つてるんだね」
「それは判らない。しかし起るかも知れない」
「しかし、主人は会わないつていう話だが」
「主人にあう必要はない。けれども、ひろ子とさだ子の二人の行動を出来るだけ注意していてもらいたいんだ」

      2

「じや、あの二人を保護するというんだね」
「うん。保護かあるいは監視だ」
「どつちだい」
「判らんね」
「という君は、彼ら二人の中に犯人がいるというのか。もしくは将来犯人たり得る……」
「それもはつきり云えない。ひろ子かさだ子が犯人になるか、被害者になるか、ともかく重大なことがおこるかも知れぬから注意していて貰いたい」
「注意してつて云つても僕には……」
「だから君は、毎日あの家に行つて二人の令嬢のお相手をしていりやいいんだよ。ずい分いい役じやないか」
「それだけならまあ僕でも出
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