れわれは、いつの間にか、この物語の冒頭に記したある喫茶店の前に来てしまつた。
「ちよつとお茶をのもうか」
 私はまだききたい所もあつたし、それにたつた今さんざん紅茶をのんで来ていても、藤枝がこうした場合必ずつき合う男である事を知つているので彼をさそつて見た。果して彼はすぐに私の申し出に応じた。
 四月十七日に腰かけたと同じボックスがあいていたのでわれわれはまた差し向いになつた。
「いや、君の説明でやつとこんどの事件がわかつたよ。まだしかし一つ判らんことがある」
「何だい」
「第一回の事件直後の家族の申し立てさ。例の夫婦の寝室の鍵ね、妻の室の方からしめてあつたというがありや本当かね」
「ふん、判らないね。しかし徳子がかけておいたと思つてもよくはないかな。駿三は自分の死は仕方がない、と思つていたかも知れない。しかし家族を防ぎたかつたのだよ。だから万一、自分の室に敵がとび込んで来てもすぐに妻の室に行かれぬように徳子に注意しておいたとも考えられる。あるいはあの夜、大いに激論して妻が憤慨の意をあそこにもらしたのかも知れない。夫をシャットアウトしたんだな。しかしこの戸の事は、今となつてはさだ子の生母のことと同様、判らないね。また知る必要もないじやないか」
 藤枝はエーアシップを吸いながらまた紅茶をガブガブとのんだ。

      12[#「12」は縦中横]

「徳子の部屋の電気の事は?」
「うん、ありやスタンドも天井の燈も両方共ついていたと考えるべきだね。徳子は一旦床の中で薬をのんだ。そうしておもむろに電気を消そうと思つたんだろう。ところが薬のきき方が早くてどつちも消すひまがなかつたんだよ」
「それからまた一つ思い出した。里村千代だがね。あれまで伊達の捕まつたことが新聞に出なかつたのはきみも云つたように全く偶然だつたんだ。ところでもしだ、もつと早く伊達のことが出れば必ず里村ももつと早く登場したはずなんだ。それでも林田はかまわなかつたのだろうか」
「それについては僕はかつてはつきり云つたことがある筈だ。林田の方は、いつ里村が出て来てもいい用意をしていたんだよ。里村が出て来れば伊達にとつては不利だし、それに里村千代の供述なるものはちよつと当局には信用されないからね。名も知れない男から度々電話で指令が来るなんていうのはまず出たらめとしかきこえんからな。そこで君はいつこう疑問をおこして
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