しまつた。これで、今までのいきさつはすつかり判つたが、肝心の林田に対する証拠というものが、全くなくなつてしまつた。では一体われわれはどうすればよいか。
「蓋しこれは今まで提供された中で最大の難問題である。どの角度からながめても、林田をとつちめる方法が見つからない。目の前に犯人を見ながら手をつかねていなければならない。一方彼は非常に危険性を増している。ここで僕が最後に思いついたのが、彼を自滅させる、という一手だ。結局、僕らは彼に自殺してもらうより外に方法をもたないのだ。情無いけれどこれが法律の力の限りだよ」
 ビーフステーキの残骸をボーイが取り片付けると、藤枝は次に出て来た果物には手をつけず、すぐ紅茶を口にしつつ、つづけた。
「自殺させるたつて、これが決して生やさしい仕事じやない。まして僕自身が法律家である以上、自殺教唆を公然とやるわけにはいかん。その結果、僕の用いた手段は君が親しく見た通りだ。昨日、君と夕方別れてからの時間を利用して僕はまず僕の推理を余す所なく書き記して見た。つまり林田英三の犯罪なるものを全部書きつけてこれを封入し、君と一緒に彼の家に出かけたわけだ」
「じや、あのノンセンスだ、いやノンセンスじやない、という問題は、林田自身のことだつたのかね。僕は又伊達のことかと思つたんだが」
「そんなことはない。年を数えて見たまえ。そんなことがあり得るはずがないじやないか。正男の生れた頃には、駿三は未だ山口県にはいなかつた筈だよ」
「ふうん、成程。では林田は、君の言葉をきいて、はじめて自分の錯誤に気がついたのだろうか」
 藤枝はニヤリと笑つて私の顔をながめた。
「ねえ君、君はあの時僕がいつたことを、事実だと信じているのかい」
「だつて君は非常な自信をもつて林田にくつてかかつていたじやないか」
「しかし、あれには何の証拠もないんだよ」
 私はしばらく言葉もなかつた。
 ようやく私はいつた。
「じや、まるで君の空想なのかい。林田がいつた通り?」

      8

「空想?――空想と云えば空想かも知れない。しかし、空想が真理を云い当てていないと誰が断言できるか。僕には、あの方がほんとうだつたのじやないか、とも思われるね。証拠なんてものはつまらぬものさ。法律家が事件を裁く時に必要なものだ、議論の相手を屈伏させる時にのみ必要なものだ。それがはたして真理にあてはまつているかど
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