を顔色で表わしてしまう。さだ子の如きは、僕より林田を信用している関係から、あるいは僕の考えを林田に告げるかも知れない。そうすれば事はますます危険になる」
「というのは?」
「君は佐田やすが何故殺されたか知つているだろう。もしあの頃林田が自分に嫌疑がかかつていると悟れば、彼はまず第一に、あの二十日の夜、アリバイを立てさせたさだ子を殺すにちがいないんだ。さだ子がまず早速危険に陷る。だから林田を疑つていることは決して本人に悟らせてはいかん。実に秘中の秘なんだ。これで僕が自分の考えを誰にも洩らさなかつた理由が判つたろう」
「では君は怪しいと信じただけでいかんともすることが出来ず、ちようど刑事がすりを捕えるのと同じように次の被害者の出来るまで待つていたわけかい」
「じようだんじやない。人の生命は蟇口とは違うよ。いくら何でも僕は第三回の殺人を待つていたわけじやないんだ。しかし、現今の法律の立て前として、あの智力優秀な林田に対してあれ以上何が出来るか考えて見給え。僕はただ心配して最後の謎を解こうとしていたのだ。最後の謎というのは、脅迫状は一体誰から最初来たか、伊達夫婦の身寄りの者とすればその者は何処に今いるか。しかして一体林田が何故秋川家をあんなに呪つているのか、ということだ。それを明らかにすればあるいは何か確たる証拠を掴むことが出来るかも知れないと思つていたのだ。
5
「僕は一刻も早く自分で林田の故郷へ行かなくちやならんと決心した。ところへあの発熱で床につかなければならなかつた。この間に、しかし面白いことが判つた。それは早川辰吉の性質だよ。彼が変態性慾患者だということだ。(第三の悲劇第十回参照)あれで僕はますます林田犯人説のたしかな事を信じた。そうだ。林田ともあろうものが、どうしてやす[#「やす」に傍点]を殺すのにあんなにあわてたか。必ず彼の計算のどこかに誤りがあつたに相違ない。とすればどこだろう。ここにやつと解決が与えられた。すなわち林田はやす[#「やす」に傍点]の辰吉に対する気もちを誤解したのだ。しかし相変らず証拠はなく僕はただ君に注意するより外仕方がなかつたのさ」伊勢海老の皿がさがると、大きなビーフステーキが出て来たのでわれわれはしばらくその方を片付けにかかつたが、やがて藤枝は語りつづけた。
「二十五日にとうとう初江が殺されてしまつた。最初あれを聞いた時は
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