出来たが、林田の方はさつぱり判らぬ、そこで僕はあの病気の間を利用して出来るだけ彼の素性を探らして見たけれども、東京に出てからの事は判つたが、その前の事はどうしてもはつきりしない」
「そうそう、君が病気の時に僕に三ヶ条の問題を出したつけね。第一、一番危険な場所は秋川邸内だ、と云つたね。あれはどういうんだい」(第三の悲劇第四回参照)
「もし犯人が林田だとすれば、必ずやつは秋川邸内をえらぶに違いないのだ。それはあの位えらい奴の考えそうな事なんだよ。事件を深刻にする為。ミステリーを深くする為。つまり彼の虚栄心さ。同一の邸内で殺人をつづけて行くことは極めて難しい。しかし俺はやるぞ! というつもりなんだ。ちようど自惚れの強い探偵小説家が、同一の場所で度々人を殺すのと同じさ。極めて困難な仕事だし、読者からは動きがないと批難されるだろうが、でも作者はこの一番困難な作を完成しようとするつもりなのさ。外でやればほんとの犯人にとつても作者にとつてもわけはないのだがね。林田にはやはり自信と自惚れと、しかして稚気とがあつた。林田ならきつとわざと困難な方を選ぶと僕は思つたんだ。のみならず、秋川の家族に嫌疑を蒙らせるのにも都合がいいからな」
「では第二、誰でも一応疑えというのは、君は林田をも疑つていたということだね」(同上参照)
「そうさ。しかして第三の伊達が警察にとめられている限り殺人事件はおこらぬ、というのは、伊達が犯人だという意味ではない。林田が犯人だからさ。林田はすべての殺人の嫌疑を伊達にかぶらせようとしているのだ。従つて彼が警察にとめられている間は、林田は手を下さない。伊達の行動があいまいな時をえらんで必ずあいつ、ことをするのだよ」
「僕にはどうしても判らぬことがある。君がそれだけ林田を疑つていたならば、何故、早く警察に訴え出なかつたのだ。そうすれば初江は少くも助かつたかも知れないじやないか」
「ああ、君の批難は一応もつともだけれども、二つの理由からして僕は弁解するね。第一は、今となつてこそ僕ははつきりいつているがあの当時は今思う程の自信がなかつたのだ。というのは、何故彼があんなまねをするかということが判らなかつたしすべてが一つの推理の上に立つていたからね、他のもう一つの重大な理由は僕が法律家だからさ。いいかえれば僕は法律というものがどの位力のないものかをよく知つているからだ。かりにあ
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