部は苦り切つた面持で現れたが、さすがにいきなり藤枝を叱りとばすわけにもいかぬらしく、だまつて椅子に腰かけた。
「昨夜はどうも失礼しました。今日の新聞記事でお怒りのことと思いますが……」
 藤枝の方が先手を打つた。
「きのうあなたが帰りがけに私に相談されたので云つていいことだけは申したつもりだ。私もまさかあれ全部をあなたがしやべつたとは云いませんがね。しかしあなたからより外洩れぬようなことが出ているのでね」
「高橋さん。今日一日待つて下さい。いや一日でなくてもいい、もう数時間たてば私がなぜあんなおしやべりをしたか、ということがはつきり判りますよ」
 藤枝のこの謎のような言葉は、しかし高橋警部の機嫌をよくする役には立たなかつた。
「何のことか私には判らんが」
「いや、必ず判るのです。きつとですよ」
 けれども、われわれは一日も、いや数時間も待つ必要はなかつた。
 藤枝のこの言葉に対して警部が何か云おうとした途端、ドアがあいて一人の制服を着た[#「着た」は底本では「来た」]巡査があわただしくはいつて来た。
「警部殿、今へんな女が一人とび込んで来ました。警部殿に是非お目にかかりたいというんです」
 これをきくと藤枝は、すつくと立ち上つた。
「犯人は伊達正男でない! というんだろう。そして自分が犯人だ、というんだろう」
 巡査が驚いて藤枝を見ながら、
「そうです。その通りです」
 と答えた。
「それだ。それを俺は待つてたんだ。さ、高橋さん、すぐあいなさい。すぐです。その女が何と云うか早くきくのです」
 高橋警部は事の意外に少し面喰つたようだつたが、さすがにあわてずそのままだまつて立ち上ると、ドアのかなたに姿を消した。
「一体、どうしたんだ。君はその女が出て来るのを予期していたのか」
「無論だ、僕のテオリーがまちがつていないとすれば、その女が死んでいるか、病気でない限り、必ずここか検事局に登場しなければならないはずだつたのだ。今日の新聞記事を見た以上はね」
 私がつづいて話をきこうとした刹那、隣室で、何だか騒がしい音がしたと思うと高橋警部のあわて切つた声がきこえて来た。
 彼はしきりに野原医師をよんでいる。
「しまつた。今殺してしまつてはいけない」
 藤枝がいきなり私の腕をつかむと許しも乞わずに隣りの室にとびこんだ。
 私はその室に二人の人間を見た。一人は高橋警部で、もう一人は
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