門から玄関まで、ちよつと半町ほどあるけれども、その門にはいるのは目についていけないと思つたのである。
5
私は、門の前に車をとめて、そこでひろ子をおろし、彼女が無事に玄関につくまでじつと見ていたが、別に何事もなく、玄関でひろ子はベルをおすと同時に、こつちを向いて、につこりしながら腰をかがめたので、私も先ず安心と、すぐにまた銀座に車を走らせた。
事務所に着いて見ると、藤枝は室中《へやじゆう》を煙にしてじつと椅子に腰かけて待つていた。
「やあ、わりに早かつたね。ご苦労様。おかげでひろ子嬢も安心だつたろう」
「なかなか立派な家だよ、なるほど今どきあんなすばらしい家をもつてちや、おどかされるのも無理はないよ」
私は、彼の前に腰をおろしながら云つた。
「そりやそうと、さつき君が受けていた電話は何だいありや? 何か僕をからかつてでも来たのかい」
「うん、そうなんだ。男だか女だかよく判らないが、ちよつときくと女の声らしい。秋川家の事なんかに手を出すなと云うんだよ」
「そんな事だと思つたよ。馬鹿にしてやがる。しかし事件が面白くなつて来たね。この手紙の来かたが少し早すぎたよ、僕はもう少しあと、つまり最近の話をききたかつたんだがね、こうと知りや、最近の話からきくんだつたが、この手紙がすつかりひろ子嬢をおどかしてしまつたんでね」
「手紙と云や、君は誰がそれをもつて来たか、もう調べたろうね」
「うん、君が出てから直ぐ電話で調べて見たよ。メッセンジャー・ボーイは大阪ビルの下のメッセンジャー・ステーションから来たんだが、そのボーイをよび出してきいてみると、そこへ、どこかの給仕らしい子供がこの手紙をもつて来たんだと云つている。その子供はまだ判らんが、たしかにこれを書いた奴は、間に二、三人の使者を入れてよこしているから、なかなか判らないよ、いずれ、最後の使者にきくと、たとえば尾張町の角で、これこれこういう男または女に金をもらつて誰にとどけた、というような事になるんだからね、それが知りたいが相手もさる者だから、ちよつとわかるまい」
「それより、ひろ子嬢がここに来てることがどうして判つたろう。不思議じやないか」
「君は、彼女が今日どういう風にしてここに来たかをきいたかい」
「いや、それをきくのを忘れたが、あんな用心深い人の事だ。あとをつけられるようなへまはやるまい」
「そりやそう
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