は、戸口の壁に沿うた鏡面のその下にある衝立にむけて大の字にひらかれている。目でもまわしたのか、と思つて近よつたが私は思わず顔をそむけてしまつた。
 恐ろしい顔。物凄い顔。この時の駿三の顔ほどものすごい顔が世にまたとあろうか。

      10[#「10」は縦中横]

 両眼は開いたまま眼球がとび出したようになつている。眉と目のあたりが、妙にゆがんで引きつつている。もしこれが顔だと云えばそれは人間の顔ではない。鬼の顔だ。魔の顔だ。私は一見した時すでに駿三は死んでいる、と感じた。
 私がしかしこの時、恐怖とおどろきでしばらく物も云えなかつたのは、一つには藤枝の態度が余りにあわてていたからである。ひきつづく秋川邸の怪事件でも、彼がこの時表わした位あわてた様子を見たことはない。いな、今までいろんな事件にかかりあつている間、彼がこんなに周章狼狽したところを見たことがない。
 彼は、私と共に室にとびこむやいなや、
「あつ、こりや……」
 とおどろきの声を発して駿三の死体にかけよつた。
 じつとその恐ろしい顔を見ていたが、
「木沢さん、大変です、大変です」
 と叫んで木沢氏をしきりに呼んだ。
 さだ子の介抱をしていたらしい木沢氏はすぐはいつて来たが、木沢氏も一時そのまま棒立ちになつてしまつた。いろいろな病人に出会《しゆつかい》した木沢氏が、こんなに驚いた位だから、如何に駿三の死体が恐ろしい顔をしていたか判るだろう。
 さすがに木沢氏はすぐに気をとりなおして駿三の胸の所をあけて耳をつけていたが、
「駄目です。心臓がとまつています」
 と云つて藤枝の顔を見上げた。
 藤枝は心もち青くなつた顔を私に向けると、
「小川、すぐ林田にしらせてやれ。林田にしらせてすぐ来てもらつてくれ」
 と叫んだ。
 こんな事件の場合に、競争者たる林田の助けをかりるとは、藤枝もずいぶん衰えたものだがそれは後になつていう話で、当時は私もまつたく気が顛倒していたのでそんなことを考えるひまもなく、あわてて室外にとび出し、そこに青くなつて慄えているひろ子と笹田執事にあやうくぶつかりかけながら電話室にといそいだ。
 林田の所にかけるとすぐ彼は電話に出て来た。
「小川さんですか」
「林田さん、大変です。秋川駿三が殺されました」
「何? 秋川駿三が。ほんとですか。ど、どこでやられたんです。誰にです?」
 どういうわけだが
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