はなみなみのお嬢さんではない。さだ子その他とはダンチ[#「ダンチ」に傍点]に頭がいい。芸術家であると同時に犯罪研究家である。君は彼女の書斎に犯罪の本以外に芸術の本がたくさんあつた事を知つてるだろう」

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 私は、ムーターの絵画史やベッカアのベートホーヴェン伝その他を思い出した。
「この点はやや注意に値すると思うね。彼女は一方に於いてクリミノロオグであるが、同時に芸術家なのだ。ね、芸術家でしかも大犯罪人というものをわれわれは考えることが出来る。しかしここにもう一つ彼女は二十一の女性だというデーターがある。一言にして彼女を批評すると、彼女はめずらしく理性に富んだいい頭をもつてはいるけれども、彼女のクリミノロギーは結局机上の空論の外を出ない。若い女の陷りやすいロマンシングに浸つているにすぎないのさ。彼女のさんざん頭を絞つて考え出した理論がさつきの伊達さだ子共犯説さ」
「どうも少し話がむずかしくなつて来たが……」
「判らないかい。つまりね、高橋警部も案外ロマンティーケルだというんだよ。警部は少々彼女を買いかぶりすぎているのさ、警部のテオリーのような整然たる犯罪は心理上ひろ子に出来るはずはない。彼女は理想家であつて実際家ではない。彼女のクリミノロギーは失礼だけれどもたかだかグリーン・マーダー・ケースを出ないんだ。そのひろ子には、他人に知られずに昇汞を手に入れるというようなごく実際的なまねは断じて出来ないと思う。第三、昨日の事件のヴェロナールもまた然り。ひろ子がどうして初江にヴェロナールをのませたか。ヴェロナールの方が昇汞よりは彼女の手に入る可能性があつた筈だが、初江にのませる手段がわからない。しかして最後に、初江にかかつたあの不思議な電話。あれは明らかに外からかかつたものだが、もしひろ子がその電話の主の共犯者であるとすれば、ひろ子はいつその女に、ああも都合よく時間をはかつて電話をかけるように合図をすることが出来たか。この点がはつきり説明が出来ない限り、僕は警部のテオリーに賛同するわけにはいかんな」
 なかば灰になつたシガレットをポンとすてると藤枝は、かたわらにおいてあつた旅行案内をとりあげた。
「ところで、僕は今云つた通りこれからすぐ旅行しなくちやならん。目的は例によつて今は云えない。しかし、今月末には必ず帰るからよろしくたのむよ」
「どうも折角なおつてくれた
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