が脅迫状を送つたのでない事が立証出来たつて、それは、彼女に脅迫罪が成立しないというだけで、殺人事件とは別問題だよ。そんなに青筋をたててさわぐほどの事でもなかろうよ。……それに、脅迫状を送つた人間が外部に存在するという事は、昨日の怪しい電話でも立証することが出来る。昨日あの際、ひろ子が誰か外部の人に、通信するひまはなかつた筈だ。従つてひろ子が外部の人に電話をかけさせるひまはどう考えてもなかつたわけだからな。僕はその外部の奴はたしかに女だと思つた。女の声だつたというし十七日に僕のオフィスに電話をかけたのも、それから、同じ日の午後敷島ガレーヂに電話をかけたのも女だつたというから、まず素直にそう解釈した方がいいよ。ところで君は、警部の論理にその他に不満はないかね」
「不満と云えば全部不満だよ」
私は不機嫌そうに云つた。
「ねえ君、ひろ子の論理に見逃し難き欠点があつたように、警部のそれにも重大な欠陷があるのに気がつかないかい」
「え?」
私は救われたように藤枝を見た。
「僕は警部が並み並みの人でないことは認める。ひろ子に嫌疑をかけたのはさすがた。しかし、次の四つの点について僕は大いに疑問をもつているよ」
7
藤枝は新しいシガレットに火をつけながらおもむろに語りはじめた。
「第一の欠陷、しかして同時に僕の考えに従えば警部のテオリーの根本的の欠陷は、第一、第三の犯罪と第二のそれとを全く別に見ているという事だ。十七日の犯罪と二十日の犯罪とが全然関係なく偶然だと考えることがこの際甚だしく不自然だという事は、僕は充分な自信を以て云い得ると思う。第一の犯罪と第二の犯罪とは著しくやり方が違つている。これはかつて君にはつきり述べた筈だ。つまり犯罪に表われた個人の個性がはなはだしくちがつている。この点に目をつけたのは高橋警部の賢明な所だと云えるが、彼の着眼点はいいけれども推理の方法を誤つている。犯罪のやり方が余りちがうので彼は犯罪の主体、すなわち犯人が異つていると推断した。しかしこれはあの時も云つた通り、そうではない。主体は違わないのだ。主体は違わないのだが犯行当時の犯人の心理状態が著しく変化したことを表わすにすぎないのだ[#「主体は違わないのだが犯行当時の犯人の心理状態が著しく変化したことを表わすにすぎないのだ」に傍点]。度々云つた通り、僕らは第一と第二の犯罪の間に、佐
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