つた」
「もし初江がもう出ていたらどうするつもりだつたろう」
「出ていれば無論手を下しようがないさ。彼女は無論またのチャンスを待つばかりだ。ところが、うまく初江が風呂につかつている所にぶつかつた。彼女は何気なくそのそばに寄つて、相手の隙をうかがつてジョセフ・スミスのまねをすればよかつたわけだ。ただ彼女の、フェータルな失策は――警部の説に従えば『風呂場の花嫁』という言葉を思わず洩らしたことである。ジョセフ・スミスの犯罪を余りはつきりまねたためついうかとそういういいあらわしをしてしまつたのだろう。通常のお嬢さんの思いつく言葉ではないからね[#「からね」は底本では「からね。」]」
「しかるに、第一、第三の犯行の間に意外にも早川辰吉の犯罪が加わつた。脅迫状をあらかじめ出しておいたので、当局は同一犯人と思う。そうすると第二の事件でひろ子自身のアリバイが完全に立つているため、事は彼女の思いもうけていなかつた位、安全にはこんでしまつたのだ。しかし一方彼女は焦慮した。それは、さだ子、伊達の二人にはつきりした嫌疑がかからないということだ。目的のなかばは成就しても、この憎い二人が捕まらなければ何にもならぬ。それでとうとう堪りかねて今日まず僕の所に来て二人のことを訴え、しかる後、自身警察に出頭してさだ子と伊達を訴えたとこういうわけなのだ。警部は最後にこういつている。ひろ子のような智慧のある少女にでつくわしたことはまだかつて一度もない。実におそるべき天才だとね」
藤枝はいい終ると、一向感情を動かしたようすもなくすまして天井に向つてプカリと煙を吐いた。
「ふうん」
私はさすが警部というものは頭がいいものだとしばらくは感心していたが、ひろ子が犯人だなんてどうして信じられるものか。
「どうだね、小川、[#「小川、」は底本では「小川」]警部の論理もひろ子のテオリー同様中々頭がいいじやないか」
「うん、しかし腑におちない点があるな」
「そうかね。じや云つて見給え」
「第一、母を殺す原因が薄弱じやないか。成程、二人に嫌疑をかけるのもよかろう。しかし恨みもない母を殺すとは」
「さあ、その点は僕も念のために警部にきいて見たんだ。すると警部の曰くさ。確証はないが、あるいは母がひろ子の性質か目的をみぬいたのじやないか、というんだ。つまりひろ子にとつて、目的をとげるのに一番邪魔でうるさかつたのが実は母だつた
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