せんでしたか』と訊ねた。するとさだ子は意外にも『いえ、ちよつとさきに林田さまにお目にかかりましたけれどもその話は……』と答えたぜ。ねえ君、さだ子はあの時伊達が警察に連れて行かれたときいて非常に心配していた筈なのだ。もし林田に好意があれば『実は昨夜の犯人らしい者が捕まつたから安心していいだろう』と、気やすめにでも云つたらよさそうなものじやないか。林田はひろ子には云つた。しかも肝心のさだ子には故意かどうかともかく、語つていない。これは一体どう考えるべきだろうね」
「成程、して見ると林田はさだ子を疑つているのかしら……」
「疑つているにしてもその位のことは云つてもよさそうだがね。ともかく林田がさだ子をかばつたとは思えない。……そうそう、そう云えばあの時僕が心配しているさだ子に『たとえばその後伊達君が邸内をうろうろしているのを誰かに見つかつたなんていうことはないのでしよう』と云つたら『そ、それは勿論でございます』と答えたが、あの時のさだ子の不思議な表情に気がつかなかつたかい。この点だよ、重大なところは」
 彼はこう云つたまま沈黙してしまつた。
 それからの彼はプカリプカリと煙草を吐くばかりで、一言も発しない。
 私はまた彼の黙想を破つてはならないと思つたのでブラリと銀座に出かけ、社に寄つてたまつていた用事をすませて午後三時半頃オフィスに戻ると、藤枝は、妙に、にこにこしながら私を迎えた。

      3

「君の留守に僕は大分活動して来たよ。第一にこういうニュースがある。秋川初江の死体解剖の結果、彼女の胃の中から多量の睡眠剤ヴェロナールが発見された。腸の中からも見出された。死因は窒息死すなわち溺死である。どうだい。非常な事実じやないか。これで僕もいくらか安心したよ」
 私には胃の中のヴェロナールがどういう重大な意味をもつているのかちよつと判らなかつたので何も云わずポカンとしていた。
「何だ、君には何の感じもおこらないのかい。僕の悩みぬいた謎がヴェロナールのおかげで、はつきり解決したじやないか。困つた人だね、君は。余りよく判つたようじやないな。第二のニュース。これは当然の話だが、林田は昨夜あれから検事や警部にあの怪しい電話の話をしたそうだ。何でも、女の声で初江がよび出されたそうだが、その電話は一種の警告だつたそうだ。『木沢氏の薬をのんではいけない。危険だから。必ずのんではいけ
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