を訪問した。もう余程よくなつているのだが、まだ二日程は外出を医者から禁じられているというので、私はまた一人で秋川家を訪問した。
 私が同家に着くと直ぐ、主人がまた身体の調子が悪いという事を丁度来合わせた木沢氏から聞かされた。
「どうもまだ神経がたかぶつておられるようです、どこも他にこれと云つて悪い所もないのですがね。昨夜一睡もできないと云つて大変不機嫌ですよ。なるべく弱い鎮静剤をやつておくがいいと思うので今処方しました。午後もう一度来て見ますが、午後になつてもあんな調子ではちよつと困りますからその時はまたその時でなんとか考えて見るつもりです」
 私が木沢氏と応接間で話している所へ、林田もやつて来た。無論木沢氏は林田にも主人の容態を語つてきかせたのである。
「そりや困りましたね、ねえ小川さん、令嬢達は大分ドライヴを楽しみにしているようだが、御主人が病気じや出るのは具合が悪いでしような」
「いや、そんな御心配はありません。今申したようにただ神経が少々たかぶつているだけなのですからかえつてお嬢さん方をどこかへおつれになつた方がお宅が静かになつていいかも知れませんよ」
 三人で話している所へひろ子、さだ子、初江が姿をあらわした。
 木沢氏が初江に向つて云う。
「昨日から胃が悪くて食慾がないということでしたね。丁度いいです。今日ドライヴでもなさつたらかえつてよくなると思います。私今帰つて午後に健胃剤をもつて来ますから、それまで運動していらつしやい」
 木沢氏がこういうのであるから無論今日もまたドライヴすることに決つた。たださだ子は父の様子を注意するために家に残るというのである。木沢氏が先ず秋川邸を辞した[#「秋川邸を辞した」は底本では「秋川郊を邸した」]。
 用意が出来て、林田、ひろ子、初江、それから私が車に乗るとひろ子が私にささやいた。
「さだ子はね。伊達さんが今朝早くからまた警察によばれているので心配で出られないんですよ」

      12[#「12」は縦中横]

 別にどこに行くというあてもない。私はただ藤枝の命令に従つて令嬢達を外に連れ出せばいい事になつているので、ドライヴのプランをきめていたわけではない。林田は何と思つているか判らぬが、これも別にはつきりした目的地はないらしく、結局、運転手の発議で、東海道をいいかげんに走つて見ようじやないかということになつた。
 
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