ューグランドについてからも別にあやしい人間は見当らなかつた。
 食堂で、久し振りでうまいコールドラブスターをつつきながら私はすつかり安心して藤枝の先見に感服してしまつた。
 食事はひるちよつとすぎ終つた。ではこれから邦楽座でも見ようというのでわれわれは再び車を東京に向けた。
 邦楽座の二階に席をとつた時はちようど、パラマウント・ニュースが映写されはじめた時で、極く工合がよかつた。映写の間の休み時間には誰にも知つた人に会わず、われわれは心ゆくまで映画を鑑賞することが出来た。
 しかし最後の、呼物の写真がうつりはじめた時、私はこれはとんだ事になつたと感じた。
 その映画は、有名な探偵小説を映画化したもので、アメリカの映画スタディオで殺人が行われるという筋、はじめの出からして物凄いものであつた。
 折角外出して陽気になつたばかりの所へ、こんな殺人映画を見せられては、令嬢達も堪まるまい。私はプログラムをあらかじめ調べないで、とび込んだ事を心ひそかに後悔しはじめたが、はたして初江が写真の途中で、
「私、何だか気味が悪いわ、もう出ない?」
 と云い出した。
 しかしひろ子の方は、いつこうこわがつている様子がない。否、大変熱心にフイルムに見入つている。久や[#「や」に傍点]の様子をちらと見ると、これは西洋映画の筋がよくのみこめないと見えて、余りこわがつていないようだけれども、また余り面白がつてもいないらしい。
 ともかく、ここに長くいるべきでないと思つたから、私はひろ子に、
「何だか、こんな時にこんな写真を見るのはいい気持がしませんから、芝居にでもいつて見ませんか」
 と切り出した。
 ひろ子は、もつと見ていたかつたらしいが、初江がしきりに出たがるので、仕方がないという形でコンパクトを出して顔をなおしながら、
「じや、東劇へでも行つて見ましようよ」
 とやつと同意した。
 またもや御意のかわらぬうち、と私は早速三人を促して廊下に出て、電話で東劇の切符を問い合わせると幸にもならんで四枚とることが出来たのでいそいで、邦楽座から、東劇までかけつけた。
 華かな劇場に足をふみ入れた途端、私は、今まで予期しなかつた危険がせまつていることに気がついた。
 これは藤枝も考えていなかつたことだつた。
 しかしあとから思えば当然考えるべかりしことである。ここに思い至らなかつたのは、全く藤枝にも似合
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