「その通り。解剖の結果で判るだろうが、僕もそう思うよ」
「ともかく、駿三に深刻な恨みをもつている奴の仕業《しわざ》とすれば、少くもひろ子、さだ子、伊達の仕事としちやちよつとおかしいな」
「君、物には裏の裏ということがある。僕が検事をしている時に取り扱つた事件で、一見財産の為の人殺しのように思われて調べて行つたら実は痴情の故だということが判つたのがある。また丁度それと反対なケースもあるよ。だから外見からうつかりスタートすると、とんだ迷路にはいり込んでしまうものだ。僕は今度の駿太郎の死に方を一つの特色にかぞえるけれども、この特色に決してごまかされてはいかんよ。案外犯人のあくどいトリックかも知れんからね」
藤枝はこういうと、シガレットケースからエーアシップをまた一本とり出した。
この時電話がチリチリとなつたので彼はいそいで立つて行き、暫く話していたが、まもなくそれが終ると、にこにこしながらもとの椅子に腰をおろした。
「奥山君からだよ、頼んでおいたのでけさ二人の死体の解剖に立ち会つた結果を報告してくれたんだ。駿太郎の直接原因は、絞殺だそうだ。つまり、ガンと食わせた方がさきで、後に絞殺ということになつて、今君の云つたのとよく合つている。それからやす子の方は扼殺だということが明らかになつたよ」
するとまた、電話のベルがけたたましく鳴りはじめた。
「おやまた奥山検事からかな」
藤枝はいそいで立つて受話器を手にとつたが、
「あ、高橋さんですか。何、けさ捕まつた? どこで? 新宿駅で? そうですか。うかがつてもいいですか。じや、御邪魔します」
と云つて電話を切るとすぐ私の前に来た。
「何だい。犯人が捕まつたのかい?」
「うん、けさ早く牛込署の刑事が、方々の停車場に張り込んでいると妙にそわそわした男を新宿駅で発見したそうだ[#「そうだ」は底本では「そうしだ」]。不審訊問をすると答がおかしいのでとりあえず署につれて来たら、ようやつともう少し前に昨夜秋川邸へ侵入したという事実を自白したそうだよ[#「そうだよ」は底本では「そうだよ。」]」
「殺人もか」
「そこまでは行つていないらしい。司法主任の好意で来るなら来てもいいつてことだから行つて見ようじやないか」
無論躊躇すべき場合ではない。
藤枝と私とはすぐに自動車に乗つた。
被疑者
1
車に乗ると、彼は
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