り廊下(図には細くなつて表れている)が母屋につづく所に庭に通う出口が一つある。
 それを左手に見ながら東側の塀に沿うて歩いて行くと立派な裏門に来た。
 不意に闇の中から人が現れて電光をわれわれに浴びせたがすぐ親しげな声が聞えた。
「おや藤枝さんですか」
 それは制服に身を固めた巡査だつた。
「殺人事件が起つちまつてからお邸検分と出かけました。あなたはここで警戒ですか」
「はあ、今ちよつと内外の交通を遮断しております。牛込区内には全部非常線が張られていますから、大抵今夜中にも捕まるでしよう」
 それから二人は私に全く判らぬ暗合か符牒みたいなもので暫く話していた。
 (これは、警察官や犯人達の間に用いられる隠語だと後に藤枝は私に説明してくれた)
「いやどうも御苦労様です」
 藤枝はやがてこういいながらその巡査に別れ、裏門を右手に見廻しながら今度は北側の塀の所まで歩いた。それから暫く外から内のようすを見ていたけれども、別に変つたこともないらしく、再び裏門を左に見て戻り、例の渡り廊下の入口から母屋に上ろうとしたのである。
 藤枝は靴を脱ぎつつ私の方に向つて、
「君これから右手が台所と女中部屋らしいね。こつちには別に異状はないらしい。じや僕等も主人公を慰問するとしようか」
 と云つたが私は彼より早く、母屋の廊下に飛上つてしまつた。そこには、スリッパが無暗にたくさんぬぎ捨ててあつた。
「おやおや、昼間のお客さんがぬぎすてたまんまかい。表玄関を遠慮した連中の為に此の家で出したんだな。一つ拝借するとしよう」
 藤枝がこんな事を云いながら後から上つて来た。
 その時ほんの偶然から、彼は右足をスリッパにつつかけそこねてよろよろとすると同時に、そのスリッパを横の方にはねとばしてしまつた。
 彼はそれで他のスリッパをはいたが、ふとはねとばされたスリッパを見て、独り言を云つた。
「おや、こりやおかしい」

      5

「どうしたんだい」
「いや、何でもないが、一寸このスリッパを見給え、裏にひどく土がついてるじやないか」
 こういうと彼は今度は夢中になつて十五、六もおいてあるスリッパを片つ端から調べて居たが、やがて私に向つて命令するようにこう云つた。
「おい君、そのスリッパをぬいで見せろよ」
 私がいわれるままに両方ぬぐと彼はその時私が左足にはいたスリッパを調べていたが。
「ほら見給え。
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