し大川が聞かずに死んだとすれば、二人にとって幸福であったろう。なぜならば、山本正雄の語った言葉、そして更に語ろうとした言葉は地獄からでなければ聞き得ず、また地獄に陥《お》ちなければ語り得なかった事実であったであろうから。
 黄昏の告白はここで終る。
 しかし次のことを一つつけ加えておかないのは事実に対して忠実ではなかろう。

 大川竜太郎の死後、彼の一代の傑作は新しき表装のもとにふたたび出版され、親友たる山本正雄はその出版に全力をそそいだ。
 大川の遺児久子は大川の親友山本正雄によって育てられることになったが、大川の作の出版その他が完全にすんだ時、山本正雄は或る日その家で久子の過失から突然変死したことが発見された。
 大川の遺品のピストルが山本によって愛蔵されていたのを、幼い久子がいつのまにかもて遊んでいるうち、過って引金に手がふれて発射し、一発のもとに頭を撃たれて即死したものである。
 しかしこのことを信じない人もかなりある。四歳の女児によってピストルがたやすく発射されないということを知っている人達は、少しもこの話を信じてはいないだろう。
 が、なぜに山本が自殺したか。これを知るもの
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