黒髪に身を捕われの境涯か。
この壺に手がある、これこそはいつの日か
よき人の肩にかかった腕なのだ。

  73[#「73」は縦中横]

壺つくりの仕事場に昨日《きのう》よって見ると、
千も二千もの土器《かわらけ》がならべてあったよ。
そのおのおのが声なき言葉でおれにきくよう――
 壺つくり、売り手、買い手は誰なのかと。
[#改丁]

[#ページの左右中央]
   ままよ、どうあろうと
[#改丁]

  74[#「74」は縦中横]

マギイ*の酒に酔うたとならば、正《まさ》にそうさ。
異端《いたん》邪教《じゃきょう》の徒というならば、正にそうさ。
しかしわがふるまいを人がどんなにけなしたとて、
われはどうなりもしない、相変らずのものさ。

  75[#「75」は縦中横]

わが宗旨はうんと酒のんでたのしむこと、
わが信条は正信と邪教の争いをはなれること。
久遠の花嫁*に欲しい形見は何かときいたら、
答えて言ったよ――君が心のよろこびをと。

  76[#「76」は縦中横]

身の内に酒がなくては生きておれぬ、
葡萄酒《ぶどうしゅ》なくては身の重さにも堪えられぬ。
酒姫《サーキイ》がもう一杯《いっぱい》と差し出す瞬間の
われは奴隷《どれい》だ、それが忘れられぬ。

  77[#「77」は縦中横]

今宵《こよい》またあの酒壺を取り出してのう、
そこばくの酒に心を富ましめよう。
信仰や理知の束縛《きずな》を解き放ってのう、
葡萄樹の娘*を一夜の妻としよう。

  (78)[#「(78)」は縦中横]

死んだらおれの屍《しかばね》は野辺《のべ》にすてて、
美酒《うまざけ》を墓場の土にふりそそいで。
白骨が土と化したらその土から
瓦《かわら》を焼いて、あの酒甕《さかがめ》の蓋《ふた》にして。

  (79)[#「(79)」は縦中横]

死んだら湯灌《ゆかん》は酒でしてくれ、
野の送りにもかけて欲しい美酒《うまざけ》。
もし復活の日ともなり会いたい人は、
酒場の戸口にやって来ておれを待て。

  (80)[#「(80)」は縦中横]

墓の中から酒の香が立ちのぼるほど、
そして墓場へやって来る酒のみがあっても
その香に酔《よ》い痴《し》れて倒れるほど、
ああ、そんなにも酒をのみたいもの!

  81[#「81」は縦中横]

尊い命の芽を摘みとられる日、
身体の各部がちりぢりに分
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