『日本資本主義発達史講座』趣意書
野呂栄太郎

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)蔽《おお》わんとして

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(例)[#地から2字上げ]――一九三二年六月――
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 世界経済恐慌の発展は全資本主義体制の、従ってまた日本資本主義制度の根底を揺り動かしている。資本主義の一般的危機の先鋭化、その上に進行しつつある恐慌の破局的深刻化、国際的諸対立の脅威的緊張、そして階級対立闘争の不可両立的激化――すべてこれらの、もはや蔽《おお》わんとして蔽《おお》いがたき事態の急激なる悪化は、支配階級及びその代弁者どもをして今さらのように国難来を叫ばしむるにいたった。曰く、経済国難! 曰く、思想国難! 曰く、建国以来未曽有の国難!
 急迫せる情勢に転倒せる帝国主義者の脳裏には、恐らく戦争とファシズム以外の考えは浮かび得ないであろう。しかしながら、経済的発展の行詰まり、政治的支配の動揺、社会情勢の不安等々の解決は、かかる一連の事態の変化を必然にし、不可避にしたところの根本的矛盾を究《きわ》めることなしには、問題解決の糸口をつかむことこそ不可能であろう。日本資本主義成立の歴史を顧み、その矛盾に満ちた発展の諸特質を究めることは、それゆえに、日本資本主義が当面せる諸問題の根本的解決の道を見出すべき鍵である。本講座はこの鍵を提供せんとするものである。
 かかる緊切なる当面の要求に応じて生まれた本講座は、歴史的事実の単なる羅列《られつ》、説明をもって能事おわれりとするものではない。いわんや、何らかの成心をもってあえて事実を虚構するがごときは、本講座の執筆者とはまったく無縁である。われわれの期するところは歴史の解釈ではなくしてその変革である。歴史を変革するとは、過去の歴史的事実を改変することではなくして、未来の歴史を創造することである。だが、われわれはそれを勝手に創ることはできない。すでに与えられたる一定の諸条件に基づいてのみ、歴史の変革も創造も可能にせられ、問題の真の解決は期待し得るであろう。
 特に問題解決のかかる諸条件を明らかにせんがために、日本資本主義発達の諸条件、その本質的諸特徴、その基本的諸矛盾を全面的に分析し、根本的に究明することは、もとより一人の能《よ》くするところでない。といってもちろん、多数のいわゆる歴
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