く来てくれた
     砂山越えて

 裾で小砂を
     曳きながら

めかり娘
「待つと言はれりや
     裾曳きながら

 来たにや来たもの
     磯蔭じや。

すなどり男
「よく言ふてくれた
     小磯の蔭じや

 磯や小磯や
     磯蔭じや。


[#1字下げ]棉打唄[#「棉打唄」は大見出し]

丘の榎木《えのき》に
蔓葛《かつら》が萠える
鷽《うそ》が鳴くわい
酒屋の背戸《せど》で。
  びんびん棉打て
  畑の茨に
  とろとろ日が照る

裏戸覗くは
みそもじさまか
そなた思へば
五分《ごぶ》、棉打てぬ
  びんびん棉打て
  畑の茨に
  とろとろ日が照る。

浜の小砂利の
数ほど打てど
そもじ見たさに
竹で目を衝いた
  びんびん棉打て
  畑の茨に
  とろとろ日が照る


[#1字下げ]山越唄[#「山越唄」は大見出し]

おらも十六
     七八は
同じ問屋の
     駅路に
なんぼ恥かし
     のう殿ご
花のやうだと
     褒られた
殿の姿は
     駅路の
そんじさごろも
     花だわい
ちらりちらりも
     めづらしき
笠に霙《みぞれ》が
     降つて来た
山は時雨《しぐれ》だ
     のう殿ご
萱《かや》の枯穂が
     動くわい
今朝《けさ》も田甫《たんぼ》の
     田の中に
鴨が三疋
     鳴いてゐた。


[#1字下げ]棧敷の上(小曲)[#「棧敷の上(小曲)」は大見出し]

渦巻の 裕衣《ゆかた》に[#「裕衣《ゆかた》に」はママ] 淡き恋心
仇《あだ》し姿の しのばれて
涙で唄を 唄ひませう

棧敷の上に しよんぼりと
仇し姿に 咲く花を
伏目になりて唄ひませう

鳰《にほ》の浮巣の岸に咲く
ほのかに白き藻の花の
はかなき恋を 唄ひませう。


[#1字下げ]十五夜[#「十五夜」は大見出し]
[#ここから4字下げ]
(門にもたれて唄へる)
[#ここで字下げ終わり]

月は十五夜
まんまるだ
月の花暈《はながさ》
被《き》てお寝《よ》れ
お寝り下され
雁《かり》がねに
黄楊《つげ》の小櫛の
歯が鳴るわ

昨夜《ゆふべ》みたのは
夢だわい
黄楊の小櫛の
歯が落ちた
熱い涙に
ほろほろと
何故にこのよに
眼がくもる

蓼の花咲く
ふるさとの
雲に渡るは
雁《かり》の連《つれ》
門の扉に
十五夜の
月が射すわい
黄楊の櫛

蓼《たで》の穂に咲く
白き花
森の庭燎《かがり》の
火は赤い
稲は刈られし
ふるさとの
堰《せき》に瑠璃《るり》鳴く
田は枯れた

雁は遙《はるか》の
雲に鳴き
秋の九月の
夜はながい
門の扉に
十五夜の
月はてらてら
何照らす。


[#1字下げ]笠岡一口唄[#「笠岡一口唄」は大見出し]

[#ここから4字下げ]
(笠岡は瀬戸内海に面した岡山県の小邑である。)
[#ここで字下げ終わり]

ここは笠岡
笠借りませうか

雨がふるから
笠貸しなさい

笠もないのに
借せ借せと

おやさうかいな

鞆《とも》で借りませうか
仙酔島《せんすゐじま》を

これが貸さりよか
この島を

おやさうかいな


[#1字下げ]速戸の芽刈り唄[#「速戸の芽刈り唄」は大見出し]

[#ここから4字下げ]
(速戸の芽刈りは門司名物の年中行事の一つである。)
[#ここで字下げ終わり]

門司の名物 速戸《はやと》の芽刈り
刈れば刈るほど芽がのびる
  刈らなきやのびない
  捨てときな

捨てておかりよか、速戸の芽刈り
刈らにやのびない、葉も出ない
  のびなきや刈られぬ
  わしや帰へる

刈りに来たのか、眺めに来たか
刈らず眺めて帰るのか
  のびたらそのときや
  刈りに来る


[#1字下げ]春の雀[#「春の雀」は大見出し]

ないてあそぶは
    雀の鳥か

こゑが可愛や
    なくこゑが

遊びほうけて
    雀の鳥が

やぶのこかげで
    啼くこゑが

やぶのこかげで
    雀の鳥が

遊びほうけて
    なくこゑが


[#1字下げ]裏の細道[#「裏の細道」は大見出し]

裏の細道
通ふて来なせ

雨のふる夜に
傘さして

傘の雫《しづく》と
小磯の浪は

ちぐたばぐたで
性《しよう》がない


[#1字下げ]雉子が啼く[#「雉子が啼く」は大見出し]

ねんねん小唄は
子守り唄

子守りの小唄に
いふことにや

山で雉子《きじ》なく
子雉子なく

木の葉をかぞへて
雉子がなく

木の実をかぞへて
雉子がなく

木の葉をかぞへて
日がくれた

日ぐれの明星は
ただひとつ

木の実をかぞへて
夜があけた

夜あけの明星も
ただひとつ

ねんねん小唄の
雉子がなく


[#1字下げ]髱《たぼ》[#「髱」は大見出し]

馬にけられたか
あの姉《あね》さまは

たぼが二尺も
垂れこけた

馬にや蹴られぬ
姉さまたぼは

牛にふまれて
垂れこけた

どこで踏まれた
あの姉さまは

裏の畑の
真ン中で


[#1字下げ]日ぐれの花[#「日ぐれの花」は大見出し]

くちなしの花の
白さよ

くちなしの花が咲いた
白い花

くちなしの花は
白い花

つゆくさの花の
青さよ

つゆくさの花が咲いた
青い花

つゆくさの花は
青い花


[#1字下げ]春告鳥[#「春告鳥」は大見出し]

梅の小枝に
春告鳥《はるつげどり》は

ホケキヨ ホケキヨと
来てとまる

ホケキヨ ホケキヨと
春告鳥が

梅の小枝で
言ふことは

風が寒くて
梅の木さへも

花が咲いたり
咲かんだり


[#1字下げ]千羽鶴[#「千羽鶴」は大見出し]

千羽鶴さへ
一羽でもかけりや

九百九十九羽
はぐれ鶴

お月さまでも
片隅かけりや

かけた片隅ヤ
真の闇

はぐれ鶴になりや
啼き啼きさわぐ

かけりやお月さんも
痩せ細る


[#1字下げ]枝垂柳[#「枝垂柳」は大見出し]

枝垂柳《しだれやなぎ》は
お化けに化けな

化けてお化けに
なつちまへな

枝垂柳に
お月さんが出たよ

細い真白い
お月さんが

細いお月さんは
三日月さんよ

出てもさつさと
ひつこんちまふ


[#1字下げ]月の提灯[#「月の提灯」は大見出し]

お空がくらいよ
月さんよ

お空に提灯
つけなさい

三日月さんさへ
山の端に

暗けりや困ろと
出てつける

お空がくらいよ
月さんよ

今夜は提灯
つけなさい


[#1字下げ]極楽とんぼ[#「極楽とんぼ」は大見出し]

わが家わすれて
極楽とんぼア

あの町この町と
飛びあるく

あの町この町と
極楽とんぼア

用もないのに
飛びあるく


[#1字下げ]鏡[#「鏡」は大見出し]

鏡見てたら
お母さんよ
おでこがうつる

おでこかくれる
お母さんよ
髪おくれ


[#1字下げ]砧[#「砧」は大見出し]

今夜来るかと
墻根《かきね》の外を

思て打つよだ
砧《きぬた》の音が

暗い墻根の
あの外を


[#1字下げ]田に居る鳥[#「田に居る鳥」は大見出し]

田にゐる鳥は
脚の長い鳥だ

脚の長い鳥は
なんと言ふ鳥だ

鷺《さぎ》の鳥ならば
脚の長い筈だ

鴫《しぎ》の鳥ならば
脚の長い筈だ。

田にゐる鳥は
首の長い鳥だ

首の長い鳥は
なんと言ふ鳥だ

鷺の鳥ならば
首の長い筈だ

鴫の鳥ならば
首の長い筈だ。


[#1字下げ]黒猫さん[#「黒猫さん」は大見出し]

夢が気になる
   お月さま

黄色いお月の
   出る晩にや

黒猫さんでも
   来るやうに

うつそりほんのり
   出ておくれ

三角お月が
   黄色なら

三角お月が
   出ておくれ

黒猫さんさへ
   来てくれりや

夜つぴて夜とほし
   まちあかす


[#1字下げ]富士の白雪[#「富士の白雪」は大見出し]

富士の白雪
   お日和《ひより》つづき

一つ眺めて
   みませうかな

やぶでなくのは
   やぶ鶯か

春の日永を
   やぶでなく

富士の白雪
   いつとけるやら

一つ眺めて
   みませうかな


[#1字下げ]春の雪[#「春の雪」は大見出し]

雀とまれや
竹の葉にとまれ

竹に しんなり
雀がとまる

ふれや たまれや
春の雪 小雪

小雪 たまれや
竹の葉にたまれ

竹に しんなり
小雪がたまる

雪は淡雪
春の雪 小雪

雀 とまれや
竹の葉にとまれ

小雪 さつとふれ
雀がとまる



底本:「定本 野口雨情 第一巻」未来社
   1985(昭和60)年11月20日第1版第1刷発行
底本の親本:「野口雨情民謡叢書 第一篇」民謡詩人社
   1928(昭和3)年8月1日刊
初出:田舎乙女「民謡詩人」
   1928(昭和3)年1月
   荷物片手に「民謡詩人」
   1927(昭和2)年12月
   今立小唄「民謡詩人」
   1928(昭和3)年3月
   美濃の関の唄(原題 美濃関町の唄)「民謡詩人」
   1927(昭和2)年10月
   土投げ唄「民謡詩人」
   1928(昭和3)年7月
   絹の裳裾「クラク」
   1928(昭和3)年3月
   岡崎一口唄「民謡詩人」
   1928(昭和3)年6月
   大函小函「民謡詩人」
   1928(昭和3)年4月
   銀座の月「民謡詩人」
   1928(昭和3)年8月
   山ほととぎす「令女界」
   1927(昭和2)年5月
   霧雨(原題 あめ)「キング」
   1927(昭和2)年6月
   旅の民謡 四章「民謡詩壇」
   1927(昭和2)年11月
   山越え 山越え「婦人倶楽部」
   1927(昭和2)年12月
   働け 働け「雄弁」
   1928(昭和3)年8月
   伊奈波音頭「民謡詩人」
   1928(昭和3)年1月
   撫子「キング」
   1928(昭和3)年6月
   煙草「クラク」
   1927(昭和2)年9月
   通り魔の唄「講談倶楽部」
   1927(昭和2)年4月
   砂原「令女界」
   1927(昭和2)年8月
   水がれ田「家の光」
   1928(昭和3)年1月
   棉打唄「早稲田文学」
   1907(明治40)年6月
   山越唄「早稲田文学」
   1907(明治40)年4月
   棧敷の上「演芸画報」
   1921(大正10)年7月
   十五夜「新声」
   1907(明治40)年5月
   雉子が啼く(原題 ねん/\小唄)「少女倶楽部」
   1927(昭和2)年6月
   千羽鶴「婦女界」
   1927(昭和2)年1月
   枝垂柳「コドモノクニ」
   1927(昭和2)年6月
   鏡「キング」
   1927(昭和2)年10月
   田に居る鳥「金の星」
   1927(昭和2)年11月
   春の雪「サンデー毎日」
   1927(昭和2)年1月9日
入力:川山隆
校正:noriko saito
2010年4月18日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
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