雨|催《もよ》ひ
荻の真白き
   穂はそよぐ
いそげ河原の
   川舟に
菅《すげ》の小笠の
   鳴子引

河原|鶸《ひは》鳴く
   淀川の
小笠かづぎし
   花娘
河原|蓬《よもぎ》の
   枯れし葉に
かへる小舟の
   艪《ろ》が響く

唄へ 花妻
   花娘
淀の川舟
   日が暮れる
菅の小笠に
   三日月の
眉をかくせる
   鳴子引。


[#1字下げ]烏[#「烏」は中見出し]

風に吹かれて
   そよそよと
山の枯葉は
   皆落ちた

木曾に木|榧《がや》の
   実は熟す
かへれ信濃の
   旅烏

茶の樹畑の
   豆食ひし
鳩は畑の
   どこで啼く。


[#1字下げ]みそさざい[#「みそさざい」は中見出し]

わたしの姉さん
   篠藪で
さつさ お背戸の
   鷦鷯《みそさざい》
誰にも言はずに
   ゐてお呉れ

去年の暮にも
   篠藪で
さつさ お背戸の
   鷦鷯
誰にも言はずに
   ゐてお呉れ。
[#改段]

荒野[#「荒野」は大見出し]

[#1字下げ]荒野[#「荒野」は中見出し]

花と云ふ花は咲けども
妻と云ふ
花は咲かない
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